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暁の光

「暁。ほら起きろ、暁」

 ゆっさゆっさと体を揺さぶられる。

「んだよ」

 良い夢を見ていた気がするのに。もう少しで、宵と会えたのに。

 目を開ければ、唯人の顔越しに満天の星空が見えた。そうか、もう冬が近い。空気が澄んで、星が綺麗に見える。

「んだよって、何だよ。全く、屋上で寝たっきりそのままって、ガキか」

「るせー」

 唯人の手を借りて、起き上がる。

 いつも思うが、唯人は保護者みたいだ。こうやって時を忘れて寝てしまえば、必ず起こしに来てくれる。ご飯を忘れれば、必ず自分の分を分けてくれる。そんな自己犠牲がなんだか母親と重なって苦しくなることもあるけれど、そんなことはどうでもいい。

「暁、帰るよ」

 ぐっと、ちょっとした一言に泣きそうになる自分がいる。そのことが、わたしにとって大問題だ。

「唯人、オレ」

「暁」

 どうしちゃったんだろう。わけもなく飛び出した私の言葉を、唯人がさえぎる。

「もう寒いんだから、腹出して寝るなよ。」

 ほら、母さんみたい。

 心があったかくなるような、くすぐったいような気が広がる。でも、次の瞬間にわたしはどん底へと突き落とされた。


「女の子なんだから」


「は」

 ばれた?ウソだ、そんなこと。

 目の前が真っ暗になる。もう、この学校には来れない。また、転校するのか。また、違う住居と道場で毎日を過ごすのか。慣れない環境で、拷問を受けるのか。嫌だよ、そんなの。もっともっと宵から離れてしまいそうで。やっと居心地の良くなってきたこの場所を離れるなんて。

「お前、体触られるの嫌がるけど、ばれるからだったんだな。どういう事情があるか知らないけど、心配するな、誰にも言わない」

「唯人」

「心配するな、誰にも言わない」

 唯人の目が、あまりにも真剣で。わたしを射抜くようで。繰り返した言葉さえも、重く苦しくわたしの上にのしかかる。

 怖くなった。この人は信用できるけれど、わたしなんかが触れていい人間じゃない。そのことを、本能的に悟った。


 静かに、屋上を出ていく唯人の背中。

 わたしはただ、終わりの時を肌で感じていた。

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