宵の光
結局、想太さんは何もしないで帰って行った。軽口を叩き合って、楽しくおしゃべりをして、あたしが食べ残した夕飯を食べてくれたりもして。それで終わり。
その他に何もない、ただただ長閑な時間だった。
胸元を過ぎた長い髪を梳きながら思う。
長閑だと思ったのはいつぶりだろうか、と。あたしの時間は、今でも暁と一緒にいた時から動き出してはいない。ずっとずっと、暁のことしか考えられない。
けれど、今日は久しぶりに、暁ぶりに長閑だと思った。ずっとずっとこんな時が流れていればいいと、そう思えた。想太さんと一緒にいるのは、暁と一緒にいるような不思議な安心感があった。
そういえば。
想太さんは、一体何がしたかったのか。ただおしゃべりをするためだけに、やたらと警備の堅いこの学校に忍び込んできたとは思えない。何か、目的があったはずだ。けれど、その目的がよくわからない。
熱いシャワーを浴びながら、このまま溶けてしまえと思う。
自分のように無価値な人間は、このまま溶けて消えてなくなってしまうのが相応しい。思い悩んでいるときは、特にそう。何もわからず、生み出さないのならば、消えてしまえばいいのだ。
誰かもわからないくらい、誰にも気づかれないくらいにひっそりと、静かに。
どうも、今日は思考がネイティブなようだ。さっきから、悪い方向にしか考えられない。
こんな日は、
「寝よう」
そう、寝てしまうのが一番だ。
何も考えず、なにも知らずに眠りに落ちてしまえ。
愚か者め。