暁の風
「相変わらず、少食だな」
「だから小っせーんだよ」
昼食のメロンパンに文句を言う、悪友二人。
「うるせーな。足りるからいいんだよ」
毎回毎回、文句を言われるのに疲れ、今はもう適当に流すことにしている。
「けどよー、」
口をとがらせながらお弁当の肉じゃがを口に運ぶ眼鏡、朝倉唯人。少食だの何だのと文句をつけてた奴。
「足りねーよ、そんなのじゃ」
売店のカツサンドを口に運びつつ、つばを飛ばしてくる茶髪、喜念芦威。わたしのことを華奢だの小さいのとからかってくる、かなりウザい奴だ。
「うるせー。」
ぼんやりと受け流して、窓の外を見る。名前も知らない鳥が、一匹で大空を悠々と舞っていた。
いつからだろう。ふとした瞬間に、いつも考えてしまう。宵がいなくなって、たった一人になって、食べるもの食べず、睡眠さえも不十分で、今生きているのが不思議なくらい。いつからだろう、こんなに空を眺めるようになったのは。
「なーに、ボーっとしてんの」
「またいつもの癖かよー」
頭を小突かれて、はっと我にかえる。
「誰のこと考えてんの」
冷静な唯人に、小さく
「妹」
とだけ答えた。
「いつもいつも、そればっかり。少しは女のこととか考えないのかよ」
「芦威とは違うんだよ」
最後の一口を飲み込んでしまってから、手をはたいて立つ。
「屋上行ってくるわ」
この学校に入ってから、屋上だけが唯一の居場所となっていた。大きな空が広がる下、少しでも宵の近くにいれるような気がして。宵に自分の気持ちが伝わるような気がして。
別に、唯人や芦威が嫌いなわけじゃない。ただ、静かに休める場所がここしかないだけだ。どうも、男子校というのは騒がしくていけない。わたしの気質にあっていないと思う。
屋上に出れば、秋の気配を含んだ冷たい風が、まるで全てを奪い去ってしまうかのように強く吹きつけていた。
わたしは、その風が少しでも宵の匂いを含んでくれはしないだろうかと、大きく大きく息を吸うのだ。何度も、何度も。
愚かしいくらいに。