表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

暁の空

「おはよう」

 空に向かってつぶやけば、母さんが優しく笑ってくれる気がする。いつも見守ってくれていて、いつだって笑いかけてくれている気がする。その隣に、宵の姿が見えることも少なくないけど、それが逆に嬉しかったりする。

 ふっ、と笑って目を伏せる。

 宵は今、何をしているだろうか。動きにくいのは嫌だ、とスカートを意地でも履かなかった女の子は、今女子校でセーラー服を着ているだろう。あれだけ毛嫌いしていた“お嬢様”を熱演しているのだろうか。

「宵」

 逢いたい。片時も忘れたことのない、自分とそっくりで、それでいて、自分よりも眩しかったあの笑顔。


「はぁ」

 ため息をひとつついて、しんみりした空気を吹き飛ばす。

 癒しの場面は、これで最後だ。学校へ行けば、いつも通りの戦争が始まる。男の喧騒と、汗と、薄汚れているプライド。それらが埃っぽい教室で、激突しては崩壊を繰り返す。わたしはそれに、目を逸らし、自分を守ることしかできない。

 けれど、それが父さんの望んだ強さなら。


「やってやんよ。」

 気弱な自分を隠すための、汚い言葉と崩れた身なり。

 もうオレは、弱くなんかない。強さなんて、とっくの昔に手に入れた。


 だから、宵に逢いたいよ。強くて優しくて、双子なのに体格が一回りも小さいあの妹に。



 徒歩十分の学校。正門から、もう戦場は始まっている。

「よう、暁!!」

 男友達は、わたしを完全に男だと思っている。

 そりゃそうだ。ありとあらゆる道場に通っていたせいで、全身にむらなく筋肉がついている。その上、身長も170㎝はある。男に比べれば小さいし、体格も華奢なほうに入ってしまうが、女にしてはでかいからばれない。

「おう。」

 声だって、無理やりだけれどそれなりの低さだ。


 ばれない。逆に言えば、女だと気づいてもらえない。

 それが、嬉しいことなのか悲しいことなのかは、もう分からなくなってしまった。


「あいかわらず、馬鹿なことやってんな。」

 今のわたしにできることは、男らしく男を貶すことだけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ