宵の空
今日も、空が青い。
寮にしては大きな窓から、四角く切り取られた空が見える。あの大空に、あたしはどれだけのことを願っただろう。祈って泣くことを、どれだけ繰り返したかな。
あの空の下で、暁は今何をしているのだろう。
そこまで考えて、悲しくなった。空から視線を外し目を伏せると、見慣れたセーラー服が目につく。
ああ、今日もこの制服を着て、女の子らしくおしとやかに過ごさなければいけないのだ。一人称を“私”と言い換えて、優雅にふるまうことを強制される。本当の活発な自分を抑えつけて、柔和な微笑みを一時も忘れてはいけない。
「苦しいな」
小さくつぶやけば、途端に暁のことが思い出された。
あの気弱な姉は男子校を指名され、男として強くなることを要求された。道場に3つも通わされて、心身ともに強くなることを強制されている。
男子校になら、断然あたしの方が向いているのに。そう思わずにはいられない。
活発で思い切りがよくて、いつも先頭をきるのはあたし。スポーツだって武道だって、強いのはいつもあたしだった。姉はただ、隣で微笑んで見てるだけで、でもそれがあたしたちの“当たり前”だった。
なのに。
何を思って、父さんは姉を男子校に、妹を女子校に指名したのか。理由なんてわかりきってるけど、問わずにはいられない。
「ふぅ」
一つだけ、ため息をつく。そして、意を決して制服を手に取る。
あたしがここで頑張らなきゃ。ここでへたれても、何にもならないんだから。暁だって頑張っているんだから。父さんが望むのはこういうことなんだから。
力づくで自分を納得させれば、あとは感情を消すだけ。何も思わない、感じない、お嬢様らしいお嬢様になるだけ。
「よし、イケる」
大きく伸びをして、あたしは無表情になった。
そう、あたしは機械。父さんのいいなりになるための、高性能なロボット。
鏡を見て微笑みを作ると、寮にしては広い部屋から優雅に出る。階段を下りて、食堂に。朝食をとって、校舎に。
いつも通り、機械的な毎日。
性格が、作り笑いが、心臓が、あたしの空が。
壊れる音に、知らんぷりしかできないんだ。