暁の落
もうこの学校に通うのも、あとわずか。
錆びついたプレートのかかげられた校門を、特に何も感じずにぼうっと眺める。
「退学、するんだ」
後ろから声をかけてきたのは、唯人だった。
「あぁ」
一瞬戸惑い、無視するのも変かと思って返事をする。
こいつはどこまで宵のことを知っているのだろうか。わたしたちの家庭の事情を、どこまで調べ上げたのだろうか。
考え始めればきりがない。きりがなくなるほど、唯人は何もかもを知っている気がする。
怖い。唯人が怖い。
もう唯人とは関わりたくない。
「ねぇ、妹ちゃんのことだけど」
「聞きたくない」
唯人が話を振ってくる。でも、その話題は唯人の口から一番ききたくないものだった。
唯人に構わず、さっさと昇降口に向かって歩き出すと、
「まぁ、そういわずに。学校、わかったんだから」
唯人がさりげなく爆弾を落とした。
ぴたりと、動きが止まる。気のせいだろうか、心臓までもが一瞬だけ動きを止めた。
「唯人、お前」
何を知っている、どこまで知っている、なんで調べた、どうやって調べた。溢れ出す疑問を喉元で止め、つとめて冷静な声を出す。
「もう、黙れ」
そう言うのが精一杯だった。
何も言うな、お願いだから。その願いは、たった五文字にしかならなかった。
「でも、暁。あんなに会いたがって…」
「黙れって」
食い下がる唯人に、はじめて目を向ける。
「黙ってくれ。何も言うな、聞きたくない。宵のことは忘れてくれ、お前には関係ないだろ?」
感情のままにそういってしまえば、唯人はひどく傷付いたような顔をした。
善意でやってくれているのはわかっている。
だからこそ、その表情は強く胸を打つ。だからこそ、拒絶の言葉を言うたびにわたしの胸がキリキリと痛む。
「…なんでそんな顔すんの」
「暁が酷いから」
「もう止めてよ」
唯人のせいだ。唯人のせいで、ここ最近頭がこんがらがってる。もうわけわかんない。考えきれないよ。
「宵に構わないで? わたしたちのこと、勝手に探らないで」
女言葉になったのなんか、気付かなかった。そんな余裕、なかった。
ただ、宵の笑顔が脳裏に浮かんでは消えていった。