宵の文
父から、手紙が届いていた。
「明星さん、手紙ですよ」
なんて、届けてくれた人は親切で優しかったけれど、手紙を受け取った瞬間、ぞっとした。
今まで、父からの手紙に良い知らせがあったためしがない。たいてい、あたしを叱咤する言葉が書き連ねてあるだけ。
これはあたしの推測だが、父はあたしへの手紙で日々の鬱憤を晴らしているんじゃないだろうか。多分、母が亡くなったショックからいまだに立ち直れていないのだろう。
今回は、何の手紙か。
封を開けば、素っ気ないコピー用紙が入っていた。柄も線も入っていない、無地の白い紙。
成績が落ちたようだ。
一週間、外出禁止。
と、不必要に大きな文字で書かれていた。
またか。
ふぅっとため息が漏れる。父の言う“お嬢様”は、おとなしくて成績のいい良い子だから、成績が下がれば当然叱られる。
この間の定期テストで総合順位が二桁になっていたからか。成績上位というのは難しい。ほんの少しでも下がると、こんな風にお叱りの言葉が飛んでくるのだから。
いつもはそれだけなのに、今回の手紙には続きがあった。
走り書きのように小さく、乱雑な文字で
暁のことは忘れろ
と。
たった、それだけ。
それなのに、あたしの体は震えた。この震えは怒りか、悲しみか。
「忘れろ、なんて」
そんなことできない。当然じゃん。
暁はただ一人の姉で、あたしの姉で、双子の片割れで。大事で、大事で、ずっと思ってきたのに。今更、忘れろなんて。
それにしても、なんで暁を探しているのがばれたんだろう。父はあたしを監視しているのだろうか?そうだとしたら、想太さんのこともばれている?
わからない。考えれば考えるほど、わからなくなる。
父は何を考えているのだろうか。何を思っているのだろうか。あたしに何を期待し、暁に何を望んでいる?
あたしには、わからない。
願わくば、暁に何の苦しみも与えませんように。