暁の灯
艶やかな黒髪に、ふと、眼を惹かれた。
宵。
名前を心の中でそっと呟く。けれども、それは宵ではなくて。そのことを知っていたはずなのに、なぜかがっかりして。
やっぱり、宵に会いたい。いまどこで、どんな女性になっているのだろう。少しは女の子らしくなっただろうか?あのころも綺麗だった髪は、いまだに綺麗なままだろうか。
もうどれだけの年月を過ごしてきたかは分からないし、数えてみたくもない。
生きていればいい。会えなくても、生きていればそれで。
そう思うのは、綺麗事だろう。
確かに会いたい気持ちはある。けれどもそれに踏み出せないのは、自分の意気地のなさが原因で。できれば直視したくない現実で。
「何、暁は黒髪おとなしめ女子が好きなの」
突然、隣にいた芦威がつぶやいた。
「え、いや、そういうわけでは」
不意をつかれてしどろもどろになったわたしに、
「そーいや、暁の話、聞いたことねーな。その容姿なら言いよる女、少なくないだろ。なんで?」
芦威はさらに追い打ちをかける。これが天然なんだから、まったく困ったもんだ。
「別に?あんま興味ないし」
ここで、自分が女だから、なんて言えるわけもなく。適当に理由をつけて、その話題からは逃げた。
今は、彼女も彼氏もいらない。
宵さえいてくれれば。
そう思うのに動けないわたしは、相当な意気地なしだ。
ごめん、宵。
届かないはずの声が、余計にむなしさをあおった。