暁の闇
「お前ってさ、ホント女々しいな」
クラスメートの何気ない一言に、びくりと肩が震えた。
幸い、わたしに言われた言葉ではない。おそらく、誰かを茶化す言葉だったのだろう。
そんな言葉にさえも、反応してしまう自分が悔しい。
まだ、父親から逃れられていないのだということを、いやでも思い知らされる。
「暁、大丈夫か」
ささいなわたしの仕草にまで目を配ってくれる、唯人に少しだけ胸が苦しくなる。
わたしはまだ、この人に心を開けないのだ。宵がもどってくる日までは。
「平気だ」
「でも、顔色悪いぞ」
「そんなこと、ない」
居心地が悪くなって、カバンをひっつかむ。この学校の授業なんて、あってないようなものだ。
誰か一人いなくなったって、誰も気付きやしない。
「ちょっと、帰る」
「おい、ちょっと待てよ」
唯人の声を背に、わたしは教室を出た。
わたしは、まだ弱い。
まだ、空の明るさに目がくらみそうになる。
まだ、女々しいという言葉にびくびくする。
まだ、宵に会う決心がつかない。
本当は、宵に会えないんじゃないんだ。探そうと思えば、探せる、
なのに、わたしは宵を探そうとしない。何かと理由をつけて、諦めてしまっている。
それが弱さからくる諦め何だと、今更気付いた。
会いたいけど、会えないなんて。
わたしはいつからか、動けなくなっていた。今に甘んじ、その場を動かないように努力してきた。
だって、変わっていくのが怖いから。
中身はまだ、女々しいままで変わっちゃいない。
その言葉は、自分の体を貫いた。