宵の案
想太さんのことがあって、想太さんの顔を見ないように生活している。いつも来ていた時間は部屋にいないようにし、食事も食堂でとるようになった。
だけれど、胸のモヤモヤはとれない。
もともと、想太さんのことが好きなのだ、わたしは。
だったら、躊躇しているのはなぜか?
それは、暁がいるから。もう6年も顔を見ていない双子の姉がいるから。
気にしなくていいのかな、とは思う。暁も向こうで楽しくやってくれているかな、なんて何度も考えた。
けれど。
もし、楽しくなかったら?一人で苦しんでいたら?辛いのに涙を我慢していたら?
それを思うと、暁のことを気にせずにはいられない。
あたしだけ、幸せになるのはいけないのだ。二人で一つの双子だから。
じっと夜を待てば、窓から小さな月が見える。弱々しくて、裏で太陽が支えていないと輝けない月。
まるで、あたしと暁のようだ。
どっちが月で、どっちが太陽かなんてわかりもしないけれど、二人で支え合わなければ生きていけない、輝けない。
ああ、暁は今頃何をしているだろう。
笑っているだろうか、それとも泣いているだろうか。
本当は、支えてもらわないと生きていけないのはあたしのほうかもしれない。あたしこそ、暁という存在に助けられて、やっとのことで生きているのかもしれない。
もしかしたら、暁はあたしがこんなことで悩むのを嫌がるかもしれないのだ。もしかしたら、久しぶりに会ってもその感動を分かち合えないかもしれないのだ。
そうなったら、あたしはどうすればいいのだろう?
暁がいなくなれば、あたしはどうなる?
想太さんは暁の代わりになってくれるだろうか。
一瞬でもそんなことを考えた自分が恥ずかしい。
暁の代わりなんてどこにもいないし、そもそも代わりになってもらおうという考え自体が間違っている。
ただ、どうしてもこの提案は魅力的なのだ。
想太さんが代わりになってくれれば、あたしの心の隙は埋まるのだ。
想太さんは、こんなあたしを許してくれるだろうか?いいよって、いつもの笑顔で言ってくれるだろうか?
明日、返事をしよう。
あたしは弱いから、この提案に想太さんが怒って、突き放してくれるのを待とう。そうじゃないと、あたしは暁にも想太さんにも依存してしまう。
依存は暁だけで十分だと、月に向かって小さく嗤った。