暁の波
放課後、連れて行かれたのは何の変哲もない家。「朝倉」という表札がかかっていたことから、唯人の家なのだろう。
「唯人、何するんだ?」
聞いてみても、
「暁に害は及ばないよ」
さらりと受け流される。
唯人のことだから、何の心配もする必要がないんだろうけど、不安なものは不安だ。女であるという弱みを握られているからか、唯人はどうしても苦手になってしまった。
「どうぞ」
穏やかな笑みで通されたのは、綺麗なリビング。大人っぽいブラウンが基調となっていて、唯人の雰囲気にぴったりだ。
「暁、話がある」
やっと腰を落ち着けたソファに、そのまま沈み込んでしまいそうになる。
話って何だ。脅しか強請(ゆすり)か、それとも・・・
「暁、しばらくウチへ来て」
「は?」
思わず、間抜けな声が出てしまった。
「いや、話せば長くなるんだけど・・・」
要するに。この唯人の家は近所のガキんちょの溜まり場らしい。それで、女の子も多く来るからわたしが混ざってもばれない、と。
「え、だから?」
なんであたしなんだ、という質問は許されなかった。だって、
「ちーす」
「よぉ!!」
噂のガキんちょ達が来たから。
「唯人さん、」
こっそりと、唯人に話しかける。
「ガキんちょって言ってたから、年下想像してたけど、」
「うん」
「どうみても、タメだよね!」
目の前には、髪を真っ赤に、あるいは真っ黄色に染めた男。制服は原形を留めていないくらいに着崩していて、耳も舌もピアスだらけだ。
「こいつらは、俺の下っぱなんだ」
唯人の一言に、顎がはずれるかと思った。
「この家に来ることで、俺がみんなの面倒見れるからさ。暁も、うちに来いよ。そしたら、守ってあげられる」
唯人のやわらかい声色。普段なら落ち着くはずなのに、この日ばかりは
「ふざけんじゃねーよ!!」
本気でぶちギレた。
「そんな偽善で“守る”だの言ってんじゃねー」
少なくとも、そんなことを言っていたくせにその約束を守れなかった奴を知っている。母さんは一生守る、一生苦労なんてさせないから――――そんな甘い言葉を吐いて大口叩いていたのは、わたしたちの父親。
「自分で自分の面倒ぐらい見れるよ」
冷たく吐き捨てると、呆然としている不良たちを置いてさっさと家を出て行った。
あの時唯人がどんな顔をしていたのか、想像もしたくない。