ねりねりねりねはローチュウに居場所を奪われた。
「ねりねりねりね! 貴様はもう必要ない!! 私はローチュウと、この店を護っていく!!」
たくさんの物たちが見守る中、私は突如そう告げられた。
今まであれほど売れ筋だと言ってくれていた彼の傍らには、笑みを浮かべたローチュウが寄り添っている。
「そんな……、昨日まではあれほど——」
「あぁそうだ! 昨日まで私は気づけなかったんだ!! キミが彼女に働いてきた悪事も何もかも!!」
ホールに彼の声がこだまする。
それほどの怒りを買ってしまうほど、私が何をしたというのだろうか。
目が合うと、わざとらしく目を伏せるローチュウ。
そんな彼女の肩を見せつけるように抱きながら、彼は再び口を開いた。
「彼女は、キミにバカにされたと言っていたぞ? 『その身体では不安でしょうから』と、売り場を変えたらしいじゃないか!!」
「それは、その席が直射日光の当たる場所で——」
「言い訳は結構!! 彼女はひどく傷ついたんだぞ!!」
溶けてしまうよりマシじゃない。
そう思ったが、今は何を言ってもきっと彼の耳には届かない。
ただ黙って、彼の話を聞くのが1番だ。
「それに、彼女を突き飛ばしたんだって?」
「いえ、それは——」
答えようとして、思わず口を噤む。
あの日は空調が壊れていて、エアコンから水が滴り落ちてきていた。
彼女のドレスは私とは違って水に弱い。
だから、それに気づかずそこにいた彼女を守ろうと、咄嗟に手を伸ばした。
華奢な彼女には、その力が強く感じたのかもしれない。
私にはそんなつもりがなくても、突き飛ばされたと本人が感じていたら……。
口籠る私をみて、ローチュウが口を開いた。
「きっと、私のことが羨ましかったのですわ。ねりねりねりねさんは、持ち歩きには適さないですもの……」
彼女の言葉に、私は返す言葉がなかった。
手軽にどこでも携帯し、食べたい分だけ食べられる彼女と違って、私は封を開けたらそれまで。
家で、テーブルの上で、トレーに開けて、水を入れて……。
それが好きだと言ってくれる人もいるけれど、彼女の言い分は的を射ている。
「今は令和。もうあなたの時代は終わりですのよ」
ローチュウのその言葉と同時に、私の居場所は奪われた。
*
それから私は、前みたいに表立って何かをすることはなくなった。
ローチュウの言うように、時の流れは残酷なのだ。
あれほど私を好きだと言ってくれていた人たちも、目新しいものがあればそちらにいく。
わかってはいても、心苦しい日々だった。
ローチュウは変わらず人々の心を魅了し続けており、世界でも知られるほどに有名になっていた。
それでも、私を必要としてくれる人たちは確かにいた。
かつて私を応援してくれていた人たちが成長し、その者の子供たちが私を見つけてくれるようになったのだ。
そして、その子供たちと共に、その親が過去を懐かしみながら私を手に取る——。
そんな、夢のような循環が起き始めてしばらく経った頃、私に一本の依頼が来た。
「ねりねりねりね、キミに頼みたい仕事がある」
「私でお役に立てるのであれば何なりと」
今更プライドも何もなかった。
前のように爆発的に売れることがなくても、ローチュウほど目立つことがなくても、それでもいいと思えるようになっていた。
しかし、告げられた言葉は意外なものだった。
「食玩のミニチュアをやってみないかい?」
「ミニチュア、ですか?」
「うん、本物のようなミニチュアが流行っているらしいんだ」
世は、再現ミニチュアブームの全盛期を迎えていた。
ありがたいことに、その恩恵が私にも向いたのだ。
「絶対に売れるという保証はない……、だけど——」
「やらせていただきますわ」
もう、何も失うものはない。
ローチュウのように、常に売り場で数種類の仲間と並ぶこともない。
派手に名を轟かせることも、爆発的に売れることもないだろう。
それならば、最期に思いっきり咲いて見せましょう——。
*
思った以上に、花は綺麗に咲いた。
私のミニチュアを求めて、ハシゴする人も現れるくらいに。
そうなると、ミニチュアだけではなく私自身も手に取られることが多くなった。
前よりずっと、子供たちがその親が私を探すようになり、見つけると笑顔になった。
——人って、本当に単純なものですわね。
「よかったわね、ローチュウを見返せて。ミニチュアは爆発的ヒット、あなた自身も再ブーム。ローチュウは悔しいんじゃないかしら」
隣の棚に並ぶお菓子が、意地悪そうに笑う。
彼女もきっと、ローチュウに居場所を奪われた側なのだろう。
だけど、見返すだなんて言葉は正しくない。
ローチュウから見れば、あの時の私は悪役だったに違いないから。
言えばよかったのだ。
『日が当たると身体に触るのだから、席を替わりましょう』と。
言えばよかったのだ。
『エアコンの調子が悪いから、そこにいると水が滴り落ちて来ますわよ』と。
そして、ローチュウが羨ましかったのも事実だ——。
「見返せてなどいませんわ。それに私は、ローチュウに感謝はしていても、恨んではおりませんの」
「へぇ、そのトレーのように広い心をお待ちなようで」
私が話に乗らなかったことが面白くないのだろう。
彼女は少しトゲのある言葉を返したあと、口を開くことは二度となかった。
仕方がない。みんな生き残るのに必死なのだから。
常に目立つローチュウは、きっとやっかみも多いのだろう。
あの時の私は、彼女に居場所を奪われたと思ってた。
でも、本当に奪ったのは彼女だったのだろうか——。
「仕方がないのですわ。時代は、常に変わるものですから」
テンプレというものを初めて使ってみたのですが、
これ、ちゃんとテンプレになっているでしょうか?
そもそもお嬢様言葉がわかりません。
ですわ、ですの、ですのよ——。
テンプレもお嬢様も、おやまにはどちらも難しいのですわ。




