巡った2人の夏
あの時からどれぐらいの時間が流れたのだろうか。外はさらに緑が色づき、外にいるのも嫌になるほどの暑さが変わらず降り注いでいる。そんな暑さの中、時々吹く涼しい風に夏を感じながら、人通りの少ない公園の木の下でザワザワと心地のいい葉と葉がこすれあう音を聞いていた。野原にそっと腰を下ろし、そのまま仰向けになり上を見上げると、雲一つないどこまでも自由な海のような空が広がっていた。
そのまま心地良い気分のまま瞼を閉じようとすると、
「せーんぱぁい!」
と向こうから愛おしくてたまらない、うるさい声が聞こえてきた。
「……どうした?」
と片目を開きながら、あからさまに機嫌の悪そうな声で言うと、
「何やってるんです?」
と顔を覗かせる。綺麗なピンクのスカートとブラウスで、さらに可愛くなった四恩がいた。
「夏を感じてただけだ」
「ふふふ、なんですかそれ。先輩らしくないですね……もっと風格のある人が言ったらかっこいいものですよ?」
と隣に腰を下ろし、上から笑ってくる。緑の隙間から漏れる太陽のせいで眩しい笑顔に、少しドキとした。
「うるさいな……こんぐらい誰でも言うだろ?」
「そうですけど……なんか違うぅ〜!」
隣で「うぅ~」と難しそうな顔をしていた。
「そんな顔せず寝転んだらどうだ?」
隣の芝生をトントンと間引くように叩いた。
「なら!」
とさらに近くに横たわり、左に寝転んだ。
「んはぁー! 風が気持ちぃですねぇー!」
二人で大きく大の字になりながら、
「このまま寝るのも悪くないか?」
「それもいいかもしれませんねぇ〜」
なんだか口調までゆっくりになってしまう。このまま眠りにつきたいが……流石に俺まで眠れば周りの目とか防犯とか、そういうのが気にかかる。何より、護らないといけない人がいる。
「このあと何する?」
と聞くが返答がない。ん? と顔を覗き込み、「少し失礼」と見ると、くぅくぅと寝息を立てていた。
ここから離れるわけにもいかないから、このまま幸せそうに眠る顔を拝めさせてもらおうと少し体を起こして見ていると、パッと目を開け、
「何見てるんで……す?」
と羞恥と疑問の顔で見つめていた。
「いや、別に〜幸せそうだなって思っただけ」
すると、
「そりゃ当然じゃないですか! こんな晴天で風も気持ちよくて……何より先輩がいてこんなに幸せなことってありますか?! いやないです!」
「そうかい、そりゃ光栄だ。ならこのままスイーツでも食べに行きますか? 眠り姫?」
手を差し出すと、
「ウヌ、くるしゅうない」
と手を取り、”あの”カフェに向かった。
あの公園のあの道を通り、あのベンチを横目にカフェに着いた。
「今日は食べますよぉ〜!」
隣でやる気に満ち溢れている彼女と共にオシャレな扉を開けると、カランカランと軽いベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませ~、何名様ですか?」
「二人でお願いします」
席に案内され、メニュー表をパッと開く。
「どれ食べます? 私はですねぇ……あ! これがいいです!」
指差したのは「イチゴ天国メガパフェ」という、やや高めなパフェを選んだ。
「少し高くないか? カロリーも値段も」
「い、良いんですよ! そ、そうだ! 二人で食べましょう!」
ということで、二人で同じパフェを食べることになったが……かなりデカい。このパフェ、イチゴがこれでもかというくらいぎっしりと詰まっているが、それと同じくらいのホイップクリーム。見ているだけで胃もたれしそうだ。
恐る恐るスプーンを手に取り、イチゴとホイップクリームがいい感じのところをすくって口に運ぶと、案外イチゴのさっぱりとした甘さと酸味が口の中に広がり、それを甘めのホイップクリームが包み込む。こんなにも美味いパフェ、もっと食べたいが何事にも限度というものがある。食べ進めるとお腹が甘いものを拒否し、しょっぱいものかコーヒーを欲していた。
「俺もう……無理……」
「え! 良いんですかぁ?!」
と真ん中に置いていたパフェを自分の手前まで持っていき、バクバク食べ始めた……。しばらくすると、あの山のようにあったパフェが消えていた……一体あの体のどこに収まるのか……。
「それにしても……食べるな……お前……」
俺なんて10分の2しか食べてないんだぞ?
「なんですー? 私に太ってるって言いたいんですか?」
「いや……その逆かもな」
そんなこんなで会計を済ませ外に出る。あのベンチに座り、
「今日はあっという間でしたねぇー」
「楽しい時間はあっという間だからな」
なんて話をして彼女を家の前まで見送り、
「それじゃぁまたね!」
「あぁ、またな!」
と後ろを向き帰ろうとすると、
「またしましょうね、春樹くん」
と耳に直接小声で言われ、「もちろんだろ? 四恩?」とドキドキしながら帰った。
家に帰ると、普段は仕事で忙しくなかなか一緒に居ることができない母、宮川来夏がいた。母は人柄も良く明るい、太陽のような人だ。父は俺が5歳の時に事故で亡くなってしまった。だから毎日線香をあげて、心の中で今日あった事とかを話す。これだけでも、何だか父と話している気分になれる。
「春樹、元気にやってた?」
「元気にやってたよ。母さんは?」
「仕事で忙しいわよー、ほんとにー、嫌になっちゃうわー」
「毎日大変なのに、お疲れ様ですよほんとに。でもこうやって家に帰ってこれるとリラックスできる」
母は仕事の都合上、仕事場所に寝泊まりしている。だから時々顔を合わせる時に、こうやって話すのが楽しい。
「春樹、これ今月と来月のお小遣いと生活費……ほんとにごめんなさいね……家に居てあげられなくて」
と俯いた。
「気にしないでよ母さん。女手一つで、こんな友達も作れなかったような俺を育てるのは大変なのはわかってるよ」
そっとハグをした。恋人にするハグとは違う、家族だからできるそんなハグだ。今日は二人でご飯を食べられて、学校で会ったこととか、母の愚痴とか俺の愚痴とか、バカみたいな話とか、そんな団らんの時間を過ごした。
次の日、目覚めのよい朝で、すぐにベッドから離れることができた。デジタル時計を見ると時刻はちょうど7時と映っていた。クマのキーホルダーを横目に朝ご飯を食べに、机に置いてあったスマホを手に取りリビングに向かう。母の姿はなく、かわりにまだ少し熱を帯びているご飯と、目玉焼きにベーコン、そして、
『昨日は楽しかったよ! また一緒に食べれたらいいね! ご飯は温めて食べて!』
と手紙が置いてあった。その手紙はもったいないから、いつも大事にとっておいてある。
目玉焼きと少し焦げているベーコンが乗った白い皿を電子レンジに入れ、加熱している間にテレビをそれとなくつけると、画面には7時7分。何だか運がいいなと思っていると、「チン!」と小気味のいい音が鳴った。電子レンジの中から、熱すぎずちょうどいいくらいの熱を帯びた目玉焼きとベーコンの皿を取り出し、小声で「いただきます」と言い、ご飯を食べようとした。スマホに「おはようございます! 先輩! 今日もいい朝ですね!」と表示されていたが、スッとスマホを伏せ、箸を手に取り食べ始める。
醤油を垂らしたベーコンでご飯を包み込み食べる。当たり前だが、とても美味しい。少し焦げのついた部分が香ばしく、白米の美味しさを引き立ててくれる。皿の中で一番存在感のある目玉焼きの卵黄部分に箸を入れ込むと、黄金色の卵黄が輝きながらとろけだした。それが醤油と合わさることで、まろやかな、でもご飯が進むしょっぱさになる。白身はプルプルしていて美味しい。卵黄と醤油の混ざった、もはや一種のタレだろう。そんなソースと混ざった白身は最高のおかずだ。
ありきたりだが幸せな朝食を食べ終え外に出ようとすると、ムスっとした顔で四恩が待っていた。んまぁ……原因はわかるが……。
「お、おはよう! 四恩!」
「おはようございます」
「て、天気がいいなぁ! さ! 学校行くぞ!!」
「私が怒っている理由はお分かりですね? 別にとてつもなく怒っている訳ではないですけどね?」
口ではそう言っても、顔はいつもの太陽のような笑顔が何故か恐ろしい……。スマホを見せるように出し、連絡先に「おはよう」と送ると、
「よし!」
と言い、
「さ! 先輩! 学校いきましょう!」
一瞬の冷たい空気。嵐が快晴に変わり、手と手がしっかりと握られた。
気づけば太陽は照りつけ、汗が一気ににじむ。冷たい飲み物が恋しい……がしかし、それよりも彼女からする春のような匂いの方が、よっぽど暑さに対して効果がある。多分、彼女の近くだけは不思議と春の風が吹いている、そんな気温だった。
「あっつぃ〜、助けてぇ〜」
と当の本人は今にも溶けそうだ。
「ほら歩けー、置いていくぞー」
「えぇ〜、鬼! 〜鬼畜! 悪魔の所業〜ってか先輩ぜんぜん暑そうじゃないですね?」
この暑さに制服。夏用でも熱が籠もって暑苦しいが……我慢すれば問題ない!
「サウナだと思えば余裕!」
と言い聞かせながら、
「悪魔でも鬼でもいいが、俺は遅刻したくないからな。ほら早く行くぞー」
「えぇ〜」
とノソノソ歩きながらも、手を繋ぎながら登校した。それのせいで、いつもより5分くらい長い登校になってしまった。学校に着けば、ヒンヤリとした空気が汗と体を冷やしてくれた。
「はぁぁー! 涼しい!!」
とさっきまでヒィヒィ弱音を吐いていたとは思えないくらい元気になっていた。
夏場でのエアコンの効いた教室での授業は快適で、もはやエアコンのない夏の生活が考えられないほどだ。しかし、移動教室での蒸し暑い、蒸籠の中のような教室での授業は地獄そのものだった。授業が終われば、皆何かを崇めるかのように「っはぁ~!」とエアコンの風を直で感じていた。
ガラガラと勢いよく扉を開けて、授業の間の休憩にわざわざ一学年上の教室まで会いに来て、すっかりクラスのみんなとも知らず知らずのうちに打ち解けていた、うちの四恩。いったいどこから打ち解けていたのやら……そんなことを考えていると、
「セーンパイー! 涼しくて最高ですねぇー!」
と皆とエアコンを崇めていた。それを「なにやってんだこいつら……」という呆れと共感が半分ぐらいの目で見ていた。
休み時間、話す相手も少ないから自分の席で窓を見ながらゆっくりしていると、
「何かの宗教みたいだよな〜あれ」
と同じクラスの中谷俊介が話しかけてきた。中谷とは「おはよう」と挨拶する程度の仲。何より中谷はいわゆる陽キャであり、クラスの陰として生きていた俺とは真っ暗な地底と明るい天国の差……、しかも顔つきも整っているときた。そんな奴が……どうして?と思ったが、
「この季節のエアコンの魅惑は異常だよな」
思ったよりも自分がちゃんと話せた事に驚きつつも、会話のラリーを多分上手く返せた。中谷がエアコンと群がるやつらを指差し、
「いいのか宮川? お前は涼みにいかなくて?」
「いや、そのうち冷たい空気が循環するだろうし、何よりあそこにいるほうが暑くなりそうだから辞めとくよ」
確かに涼しそうで、今すぐにでもあの魅惑的なほどまでの空気に当たりたい……だがあの人だかりだ、熱気もあるだろう。エアコンに当たりたい気持ちをグッと我慢して、渋々持ってきたキンキンに冷えた水で体を内から冷やして我慢した。暑さと戦っていると、次の授業を始める音が鳴り、各々エアコンの空気から離れるのが名残惜しそうに、その姿は遊園地から嫌々帰る子供のような……そんな雰囲気で授業準備を始めて、四恩はそそくさと帰っていった。
しばらくしてお昼休憩の時間になった。売店での一番のピーク時になる時間を避け、お昼の売れ残ったパンと、気分で買ったいちごミルクを手に、どこでこれを食べようか校内をウロウロしていると、
「お、春樹! 今からお昼か?」
と向こうから中谷が歩いてきた。
「そうだけど?」
「なら一緒に食べようぜ? お前ともっと話したいし!」
言われるがまま、極楽浄土のような涼しい学校から外に出ると、玄関を出ればあっという間に世界が変わったように身体を外の渦巻く暑さが纏った。じわりじわり汗をかきながら、陰キャと陽キャが同じ木の下で腰を下ろし、ご飯を食べることになった。
でもなぜだろう……中谷くらいのコミュ力なら、ご飯を食べる友達の一人や二人を用意するのは難しくないはずだ。なにせ周りから寄ってくる……なんて思考を巡らせていると、
「いま、なんで俺となんか飯食べようとか言ってんの? とでも思ってるでしょ?」
ウッと思ったのもつかの間、中谷がどこか遠くを見るような面持ちで、
「少し俺の昔の話をしてもいいか?」
「別にいいけど……?」
パンを一噛じりしながら聞き耳を立てた。
「俺って今は……自分でも言うのはアレだが……いわゆる陽キャってやつだろ?」
「んまぁ……そうだね」
「だけど昔ってそんなことなかったんだぜ?」
「ほんとに……?」
「これがほんとなんだなぁ」
今の彼からは想像も出来ない……。
「昔は根暗で卑屈で面白くない様な奴だった……毎日イジメられてパシリにされて、それもう散々な物だよ……早く決断すればよかった」
顔はどこか後悔してる様だった。
「けど、気づいたんだ。少しでも前を向いて自分らしくあることの大切さ、自分の足で歩く大切さに……だから思いきって『やだ!』って言って頬を吹っ飛ばしてやったんだ! ……まぁ……殴られ返されたけど。でもあの呆気にとられた顔は最高だったな〜。そこからビビってイジメも減ってな! 腰抜けだったよ、今思えば!」
と右拳を眺めていた。
「引くかもしれないけど、これが俺の過去。でもどうして、こんな話をお前にしようと思ったのかねぇ〜」
大の字になりながらそう言った。
「ま、多分どこか、お前が昔の俺に似てるところがあったからかもな……」
「俺も否定できないところが辛いところだな……」
よっと、と立ち上がり、
「そろそろ時間だ……」
大きく伸びをし、時計を見ればあっという間に休みの時間は溶けていた。空になったパンのゴミを持って、
「っはぁ〜めんどいけど行くかぁ……」
と次の授業に向かった。額からはじとりじとりと汗がたれてきた。
授業が一通り終わり、校門前で彼女を待とうとしたが、先に待っていたらしい。いつものように近づくと、
「お昼……どこ行ってたんです?」
「普通に……食べてたけど……」
「彼女(私)を差し置いてどこをほっ突き回って食べてるんですぅ! これは許しがたいかもしれませんよ!」
「あくまでも”かも”なんだな」
そんな話をしつつ校門を後にすると、
「そいえば先輩って祭りとか行くんです?」
「藪から棒にどうした?」
「いやだって夏祭り近いじゃん」
「もうそんな季節か……」
「そうですよ! これは一大イベントですよ! 私の可愛い浴衣を見れるチャンスです!」
フフンと鼻を鳴らした。
「確かに、それは楽しみだな」
「そ、そうですよね! 楽しみですよね! 首を洗って待っててください!」
「なんで首を洗わないといけないんだよ……処刑でもされるのかよ」
と冗談も交えながら、夏祭りの話をしながらその日は別れた。
家のベッドに身を委ねながら自由落下し、スマホで日付を見ながら、
「夏祭り……か。全然行ったことなかったな……」
今年は行くかぁ……と心が喜ぶのを感じながら、夏祭りの事を想像しながら寝ようとした……どこかニヤけてしまう。
こんにちは、こんばんわ!リミマです!
完全に趣味で始めたこのお話人気もない様な物語ですが…自己満足の為に出しています…今回のお話はこのあとのお話しが気になる、引きが気になる…かもしれない様に書いてみました!私自身、夏は好きなので私が好きな夏を皆さんに感じてもらえるように頑張ります!ぜひ温かい目で見守ってもらうと幸いです!この作品を見つけてくれて、最後まで読んでくれてほんとに感謝!




