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天使予報

作者: 北峰
掲載日:2026/03/30

  今日は強い南の風、

  空から天使の羽が降るでしょう



 塔から見下ろす風景は、いつものように灰色によどんで霞みがかっていた。

 この塔に閉じ込められてから、幾日いくにちが過ぎたのだろう。朝日が昇った回数を、指折り数えようとしたが、虚しくなってやめた。


 天に向かって屹立きつりつするようにそびえる塔からは、裾野に広がる街並が見渡せる。ついこの間まで暮らしていた街。二度と戻ることのない故郷。


 たわいもないことに喜び、傷つき、明日が来ることを当然と思っていた日々。そんな日常は、何の予告もなく破られた。天使の息吹いぶきが私の体に染み渡った、その時に。


 もうあの日に帰ることはできない。

 それは天使に魅入られた者の運命。


 私は一つ息をつき、鳥籠に手を伸ばす。塔の最上階の狭い室内で、唯一触れることのできる生き物。その白い小鳥が、籠の中で羽を休めている。


 訪れる者も、声を交わす者もいない。わずかな食事は、ドアの下に取り付けられた小窓から定期的に投げ入れられるだけ。そんな日々を暮らしていた私にとって、この小鳥だけが心の慰めだった。


 鍵を外し、籠の扉を開けてやる。だが、小鳥はいっこうに出てこようとはしなかった。いつもは腕や肩に止まり、澄んだ声で歌っていたはずなのに。

 恐る恐る小鳥に触れる。案の定、小鳥は氷のように冷たくなっていた。


 やはり、と私は目を閉じる。

 わかっていた。残された時間がわずかだということくらい。最後に小鳥に触れた時、すでに命の灯は消えかけていたのだから。


 私は小鳥を籠から出して、胸に強く抱きしめる。

 この小鳥の命を奪ったのは私。私がこの塔の中で籠に閉じ込め、殺したのだ。


 私は固くなった小鳥の頭を撫でてやる。

 小鳥がこうして生涯を終えたということは、私の命も終わりが近いことを意味する。それを測るために、塔の中に小鳥を連れてきたのだから。


 私は冷たくなった小鳥の翼を広げ、その羽をむしり始めた。一枚、一枚、丁寧にいとおしく。抜き取った羽を取り落とさないよう、大事に抱え込む。


 そうしてすべての羽をむしり終えると、私はふと自分の手を見つめた。病んで肉がげ落ち、枯れ枝のように細った指。肌には醜いまだらが浮かぶ。鏡と向き合う勇気は湧かなかったが、恐らく別人のような相貌そうぼうに変化していることだろう。


 これが塔に閉じ込められた理由。

 旅から帰ってきた私は、死の病を連れていた。異国の地でわざわいの嵐を巻き起こしたという病。すでに発症していた私は、街の人間によってこの塔に隔離された。街を死が席捲せっけんしないようにと。そして、ともに過ごした小鳥が死に、私もまた死に近づこうとしている。


 だけど、このままでは終わらない。


 私は塔の窓を開ける。唯一、外界と接することのできる扉。飛び降りたりしないようにと、格子が入っているが構わない。格子の隙間から、私は手を伸ばす。その手には白い羽。――死の病にかかって果てた小鳥の。


 私は羽を抱えた両手を広げた。


 そう、私は死の天使。折からの強い南風に乗って、羽はどこまでも舞う。

 やがては街に、天使の息吹を運ぶだろう。

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― 新着の感想 ―
しっとりとしている感じだった('ω') せつなげッ( ゜Д゜) たくさん振りまくんだねぇ……
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