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澄音の巫女、鎖を結ぶ者 『喰ノ刃』スピンオフ短編

【内容要約】

柚月が守札衆の次席(若宮司)になるまで。銀鈴の修行、澄心律の獲得、そして凛夜との出会い。運命の鎖を結ぶ者の物語。


祖母の手


柚月が初めて銀鈴を握ったのは、五歳の時。

守札衆の総廟、暗い廊下。祖母は柚月の手に鈴を置き、こう言った。

「この音が聞こえるか?」


銀色の鈴は重く、小さな手には握りきれない。だが音は澄んでいた。

「聞こえます」


「その音は、心の声だ。街の怒りを静め、人の心を落ち着ける。巫女とは、この音を使う者」

祖母は白い巫女衣をかけてくれた。

「お前が巫女になるのは決まっている。柚月。運命だ」


柚月は鈴を握り続けた。重さも、音も、全部が運命に感じられた。


修行の十年


十五歳まで、柚月は鈴を鳴らし続けた。

毎朝、総廟の奥庭で。夜も、寝る前に。


澄心律を習得するまでに三年要した。

心を澄ませ、怒りだけを音で静める技。周囲の感情を読み取り、その怒りの波紋を銀音で包む。


初めて成功した時、祖母は笑った。

「お前の音は本物だ。街の怒りを鎮める力がある」


だが修行は終わらない。

次は「澄心律・解放」。感情を吸い上げられた者を、銀音で再び目覚めさせる技。

さらに「澄心律・絆結い」。砕けた心を、銀音で繋ぎ止める秘術。


それらを習得するのに、さらに五年がかかった。

二十歳になる前に、柚月は守札衆の中でも指折りの巫女になっていた。


だが、祖母は言った。

「真の使命はまだ。お前は『鎖を結ぶ者』として選ばれている」

「鎖ですか?」

「刃と心を繋ぐ者。それが巫女の最高の役割だ。お前はそのために生まれた」


柚月は銀鈴を握った。その時、初めて疑問が生まれた。

本当に、自分は運命のためだけに生きるのか。


大社での異変


二十三歳。柚月が若宮司に昇進した日。

朱い印章を胸に受け、柚月は新しい衣を纏った。

次席として、最高の儀式や重大な決定に立ち会う権利。


だが同時に、その日から奇妙なことが増えた。

黒い研究局の人間が、守札衆の内部へ入ってくるようになったのだ。

因研究局の技録官・蒼馬。彼は刃のことを調べていた。


「黒刀は危険だ」蒼馬が評議で言った。

「怒りを吸収する能力があるなら、制御装置が必要だ」


嘉栄長老は首を横に振った。

「刃は封印具だ。研究の対象ではない」


だが蒼馬は笑った。

「では、その刃に鎖をかけている者は? 誰が責任を持つ?」


柚月は直感した。彼は、巫女――つまり自分の役割を探っている。

巫女が『鎖を結ぶ者』であること。それが何を意味するか。


その夜、祖母に問うた。

「なぜ私が『鎖を結ぶ者』なのですか?」

祖母は沈黙した。それが答えだった。


霧村への派遣


一ヶ月後、嘉栄から呼び出しを受けた。

「霧村で子どもが失踪している。黒因の井戸が動いている可能性がある」

「かしこまりました」

「それと――」嘉栄は長く息を吐いた。「若い封印術師が配置されるという報が入っている。凛夜という者だ」

「はい」

「その者の鎖を見極めてこい。『鎖を結ぶ者』として、その刃と心が本物かどうかを」


柚月は頷いた。だが心は揺れていた。

本当に自分は、鎖を見極める運命なのか。

それとも、自分自身の心はどこにあるのか。


霧村での出会い


霧に沈んだ村。柚月が到着した時、既に凛夜たちは行動を始めていた。

黒因の井戸を前に、一人の青年が鎖を握り、「借りない」と言っていた。


柚月は銀鈴を握った。

その青年の心を読む。怒りを感じ取る。鎖の質を測る。


だが何かが違った。

通常、刃と術師は相互に怒りを吸収する。だがこの凛夜は、その怒りを「食わせない」と言っていた。完全に制御し、借りず戦おうとしていた。


───これは、運命ではない。選択だ。


柚月の心が揺らいだ。


帝都への同行

その後の流れは早かった。

凛夜たちが帝都へ向かうことになり、嘉栄から「同行せよ」との命がもたらされた。


理由は一つ。封鎖宮での「怒り計り」の儀式。そして鎖を「鎮め結う」という最高の巫術。

柚月がそれを行うことで、凛夜の鎖が本物か、その心が本物かを確認するのだ。


だが霧村での出会いから、柚月の心は変わり始めていた。

凛夜は何度も「借りない」と言った。だが最後には、柚月の銀鈴に手を握らせた。

「借りる」と言った。


その時、柚月は悟った。

運命は、選択によって変わるのだと。


鎖結いの儀


帝都の鏡池で、柚月は銀鈴を握った。

凛夜が刃を池へ差し入れる。鎖が光を帯びる。

澄んだ銀音が、二つを繋ぐ。


【共鳴率 65%】


完成した瞬間、柚月は感じた。

この鎖は、運命だけでは結べない。

心と心が繋がってこそ、初めて成立するのだと。


そして大封環が起動した時、柚月は迷わず凛夜の手を握った。

「澄心律・絆結い」を発動し、砕けた鎖の代わりに自分の心を使った。

完全に「借りた」のだ。


最後の決戦で、凛夜は『解放撃・黒炎棘』を放った。

その炎を柚月の銀音が静め、怒りを鎮めた。


鎖は切れたが、心は繋がったままだった。


新しい巫女


事件の後、嘉栄は柚月に言った。

「お前は『鎖を結ぶ者』の使命を果たした。だが運命はそこで終わらない」

「はい」

「新しい鎖を鍛える。その時も、お前がそれを結ぶのだ。今度は――運命ではなく、選択として」


柚月は銀鈴を握った。

祖母は微笑んでいたはずだ。その祖母は既に故人だが。


「はい」柚月は答えた。「私の選択として、鎖を結びます。何度でも」


那月の夜明け


新しい銀鉄鎖が完成する日まで、柚月は凛夜の手を握り続けるという。

借りたままで、返さないままで。


「返す気、ないでしょ」と霧花が笑った時、柚月は初めて自分の気持ちに気づいた。


本当に、返す気がなかった。

鎖を結ぶことが、運命ではなく、自分の望みだったのだ。


銀鈴は澄んだ音を鳴らし続ける。

街の怒りを鎮めるために。

そして凛夜の心を支えるために。


柚月は微笑んだ。

運命に選ばれた巫女から、心で選ぶ巫女へ。

その変化が、澄んだ銀音に込められていた。


───


末尾モノローグ


銀鈴の音は変わった。

かつては義務の音。街を静めるための、冷たい澄音。


だが今は違う。

凛夜の心を支える音。霧花の氷を導く音。迅牙の爪を後押しする音。


運命は変わらないと思っていた。

だが、選択があれば、運命も変わる。


新しい鎖が生まれる日まで。

その先も。


私の銀音は、ずっと澄んでいる。


『澄音の巫女、鎖を結ぶ者』――完

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