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座敷わらしの飼い方

作者: ウォーカー
掲載日:2025/12/07

 いつの年も、十二月というのは厳しい季節だ。

冬の寒さは身を刺し、忙しさで目が回りそう。

それはここ、都市部にある会社にも及んでいた。


 会社の中では、社員たちが慌ただしく動いている。

そんな中で、二人の中年社員が話をしていた。

「俺、来週からしばらく出張になっちゃって。

 小嶋君、うちの家で飼っている犬を、君の家で預かってくれないかな?」

「うちかい?

 私の家も小さい息子がいるんだよねぇ。」

「それは大丈夫。

 うちの家は小型犬だし、家犬で大人しくて、

 人を噛んだことなんてないから。」

「そうか。それじゃあ、しばらくうちの家で預かるか。」

「恩に着るよ。」

そんなやり取りがあって、小嶋家でしばらく犬を預かることになった。


 小嶋家というのは、郊外に一軒家を持ち、

父親、母親、それに十輝とおきという幼い男の子の三人家族。

サラリーマンである父親の稼ぎで生活している。

どこにでもある標準的な家庭・・・とはもう言えない、

今では比較的余裕のある裕福な家庭だった。

十輝くんは大人しく読書家で好奇心の強い子で、

幽霊や妖怪を扱った民話がとても好きで、絵本をよく読んでいた。

だからきっと動物である犬も気にいるだろう。

父親はそう考えて、犬を預かることにした。

しかしそれは甘かった。

預かった犬を家に持って帰るなり、

人懐っこい犬は子供に飛びかかろうと走り出し、

それを見た十輝くんは怯えて大泣きしてしまった。

「十輝、お前、犬が嫌いだったのか。」

両親も知らない子供の性質。

十輝くんは、幽霊や妖怪は好きでも、犬は苦手だったのだ。

十輝くん曰く。

「幽霊や妖怪は体が無かったり話ができるけど、

 犬は体があって話も通じないから怖いよぅ。」

ということだった。

犬も犬で、初めて見る子供の姿に興味津々で、

十輝くんに戯れようと追いかけ回す始末。

犬に悪気は無いのだが、現実の獣が苦手な十輝くんにとっては、

迷惑もいいところだった。

「あなた、犬を返すわけにはいかないの?」

「うーん、今からじゃ難しいな。

 それに引き受けたからには、責任もあるし。」

「まさか十輝あのこが、犬嫌いだったとはねぇ。

 わたしも知らなかった。」

「どうしたものかね。」

困った顔を合わせる両親の前で、十輝くんは、

犬に顔を滑られ気色悪さに泣き叫んでいた。


 小嶋家に犬が来てから数日が経過した。

しかし相変わらず十輝くんは犬に慣れる気配を見せない。

逆に犬の方は十輝くんを気に入ったようで、追いかけ回していた。

犬を他所に預けようかとも考えたのだが、

十二月の師走に入った世間では、どこも手一杯。

今から犬の預かりをしてくれるようなところは見つからなかった。

十輝くんの父親は、同僚が犬の世話を頼んできた理由を知った。

預かっている犬は小型犬で、放って置いても十輝くんが怪我をする心配はない。

それはいいのだが、かといって、泣くほど嫌がっているものを放っておいては、

子供の人格形成や将来に影響が出てしまうかも知れない。

そこで十輝くんの両親は思案し、犬が怖くないことを、

十輝くんに言葉で説得してみることにした。


 十輝くんに犬が怖くないと理解してもらう方法。

その第一歩として、十輝くんと犬の別居を考えてみた。

まずは家の中での別居。

犬を一部屋に閉じ込め、慣れるまで外に出さないようにしてみた。

すると犬は寂しさに遠吠えを上げ始めた。

これでは近所迷惑になるし、犬にも悪影響が出かねない。

犬を部屋に閉じ込めるのは無理だと判断した。

次に試したのは、別の別居の仕方。

もう十二月なので、寒さも本格的になってきた。

そこでこたつを出してみた。

そうすれば、小型犬ならこたつに籠もってくれると思ったから。

しかし結果から言うと、小型犬でも犬は犬。

こたつなどには目もくれず、走り回っていた。

「やっぱりこたつで丸くなるのは猫だけかぁ。」

十輝くんの父親と母親は頭を抱えていた。

そうとなると、次に試すのは、犬を外に出すこと。

犬小屋を作って、犬を家の外で飼うことにした。

そうすれば、犬が苦手な十輝くんも怖がらないはず。

しかし実際にやってみると、問題が発生した。

預かった犬は家犬として飼われていたので、犬小屋で暮らした経験がない。

そうでなくとも小型犬なので、寒さに弱く、見るから寒そうに震えていた。

「この犬は外で飼うのは無理みたいねぇ。」

「折角作った犬小屋も無駄か。」

試しに、犬小屋に毛布を入れたり、

犬小屋の近くにストーブを置いたりしてみた。

しかし冬の寒空では、その程度の温もりなど、

あっという間に空に溶けてしまった。


 犬を家の外に置いておくのは無理がある。

そこで今度は、家の中に置いておくための細工を考えてみた。

犬用の服や被り物を買ってきて、犬に着せてみた。

これでぱっと見にはぬいぐるみに見えたのだが。

しかしこれでは外見を多少いじっただけ。

十輝くんが学校から帰ってくると、犬はぬいぐるみのような姿のまま、

キャンキャンと嬉しそうに吠えて十輝くんに飛びついた。

「うわあ!犬!こわいよー!」

十輝くんはぬいぐるみ姿の子犬に追いかけられて、必死の形相で逃げ回った。

やがて転んだ十輝くんに犬が追いつき、顔を舐め回していた。

両親はその姿を見て、やはり困った表情。

「多少変装しても犬は犬だな。」

「そうね。行動が変わるわけでもなし。」

犬の姿だけを変えてもしようがない。

そこで両親は考えた。

いっそ犬の存在ごと変えてしまおう、と。


 その日、十輝くんが学校から帰ってくると、違和感があった。

妙に静かだ。いつもなら、あの忌々しい犬が突撃してくるのに。

「ママ、犬は?」

「さあ?どこかしらね。」

答える母親はちょっと楽しそうにしている。

するとどこからか物音が。

十輝くんが怖怖と物音をたどると、どうやら押し入れの中に何かいるようだ。

押入れと言えば、怪談や民話の舞台としてよく使われる。

どうせ中にいるものは決まっているのだが、

幽霊や妖怪を扱った民話が好きな十輝くんは、

好奇心に押されて押し入れをそっと開いてみた。

するとそこには、全身に赤い衣をまとった小動物がいた。

布団にくるまれて、すやすやと寝息を立てている。

事情を知らない人から見れば、それはやはりただの赤い犬にしか見えない。

しかし、民話に詳しい十輝くんには違って見えた。

赤い服を着て押入れなどに潜む妖怪と言えば・・・。

「座敷わらしだ!

 ねえ、ママ!押し入れに座敷わらしがいるよ!」

十輝くんはおっかなびっくり、赤い小動物を抱きかかえた。

そこにはやっぱり見知ったあの犬の顔があるのだが、

しかし状況がただの犬ではないことを示している。

座敷わらしと言えば、家の押入れなどにいる妖怪で、

その姿を見ると家が栄えるという民話が伝わっている。

母親が言う。

「でも、座敷わらしって、人間の子供の姿をしてるんじゃないの?」

やさしい問いに、十輝くんは得意げに答える。

「座敷わらしは、通常は人間の子供の姿と言われているけど、

 地域によっては赤い獣の姿だとも言われているんだ。

 だから、これが座敷わらしでも不思議はないよ!」

赤い衣を着せられた犬は、十輝くんに抱きしめられて嬉しそうにしている。

赤い衣が動きにくいのと、眠っていたのもあって、今は犬も大人しい。

こうして、犬を座敷わらしに偽装することで、

ようやく十輝くんは犬を家に置いておくのを認めてくれた。

作戦通りになって、十輝くんの両親はほくそ笑んでいた。


 十輝くんが犬が苦手だったのは、食わず嫌いだったようで、

座敷わらしとして預かっている間に、十輝くんは犬に懐いていった。

多少吠えたり顔を舐められたりしても、幸運の証として十輝くんは受け入れた。

犬の方も十輝くんに懐き、しばらくするともう二人はお互いに仲良しになった。

それは両親の想像以上で、これからやってくる試練が心配になるほどだった。

なぜなら、十輝くんがかわいがっている座敷わらし、改め犬は、

預かりものだから。いずれ返す事が決まっているのだから。

そしてその日は、思ったよりも早くにやってきた。


 小嶋家に犬を預けた同僚は、出張を予定より短く切り上げて帰ってきた。

「やっぱり犬が心配でね。君の家にも迷惑をかけられないし。

 仕事を急いで終わらせて帰ってきたよ。

 これから犬を迎えに行ってもいいかい?」

「えっ?ああ・・・」

突然のことで、十輝くんの父親は答えを濁した。

今や十輝くんは犬と懐いてしまっている。

それが急に引き離されたら、さぞ悲しむことだろう。

一応、前もって家に連絡してみた。

電話には母親が出て、まだ十輝くんは帰ってきていないという。

「お別れの挨拶でもさせてあげる?」

「いや、いいだろう。余計に悲しませるだけだ。」

十輝くんの両親は相談し、十輝くんが不在の間に犬を返してしまうことにした。

犬の飼い主が小嶋家にやってきた。

飼い主の姿を見つけて、犬は嬉しそうに飼い主に抱きついた。

「おーよしよし。良い子にしてたか?ところで、この赤い服は何だい?」

「あ、それはちょっとした都合でね。」

まさか、預かった犬を座敷わらし扱いしていたとも言えず、

父親は詳しい事情には触れなかった。

犬の飼い主にとっては、犬が無事に帰ってくればいい。

特に詮索はしてこなかった。

深々と頭を下げ、お礼のお土産を置いていって、

飼い主は犬を連れて帰っていった。

犬は十輝くんがいないことを少し心配しているように見えた。

犬ですら別れを惜しむほどの仲なら、十輝くんはどんな反応をするだろう。

両親は自ら決めたこととはいえ、十輝くんのことを心配していた。


 しばらくして、十輝くんが家に帰ってきた。

「ただいまー。座敷わらしはどこ?」

十輝くんは座敷わらしを呼ぶが、その姿はもうない。

「座敷わらし?座敷わらしー!」

十輝くんは半べそをかいて家の中を探し回った。

それでもどうしても見つからず、母親に抱きついた。

父親と母親は、やさしく諭した。

「あの座敷わらしはね、うちでの役割を終えて、

 元の場所に帰っていったんだ。」

「寂しいでしょうけど、十輝も我慢してね。」

十輝くんにはさみしい思いをさせてしまうが、

これでしばらくすれば、何もかも元通りになる。

両親はそう思ったのだが、十輝くんの反応は違った。

「座敷わらしが消えったって?大変!」

「大変って何がだい?」

「パパ、ママ、知らないの?

 座敷わらしは、姿を現すと家に福をもたらし、

 姿を消すと、福が逃げてしまうんだ。

 このままじゃ、うちは不幸になっちゃうよ!」

両親は顔を合わせた。

そういえば座敷わらしの民話で、そんな話を聞いた気がする。

「十輝、じゃあどうしたらいいんだい?」

すると十輝くんはにっこり笑って言った。

「もう一匹、うちで座敷わらしを飼えばいいんだよ。

 ちゃんと赤い色の服を着せて、ね。」

やられた。

十輝くんの両親は、十輝くんの企みに気が付いた。

十輝くんは、赤い服を着せた犬がただの借り物の犬だと、

とっくに気が付いていたのだ。

それを承知で苦手な犬を克服し、それどころか犬を気に入って、

今ではもう犬が欲しくなっていたので、

両親が犬を飼わざるをえない状況を作り出そうとしたのだ。

両親は言う。

「あのね、犬を飼うのはとっても大変でね・・・」

すると十輝くんは当然のように言う。

「犬じゃなくて座敷わらしだよ。

 座敷わらしにお供え物をするのは、家人として当然のこと。

 そうすれば、座敷わらしは福をもたらしてくれるんだから、安いものだよ。

 元々、座敷わらしだから飼おうって言ってのはパパとママだもんね。

 座敷わらしがいなくなったら福が失われるって、知ってたんでしょう?」

十輝くんは幼いが幽霊や妖怪の民話には大人並に詳しい。

両親は反論する口実を封じられてしまったのだった。


 こうして、小嶋家ではもう一匹、犬を飼うことになった。

飼うことにしたのは、預かったのと同じような小型犬で、

赤い服を着せると、十輝くんによく懐いたのだった。

その姿は確かに座敷わらしと言えなくもなくて、

その効果なのか、小嶋家は家内安全に過ごせたという。



終わり。


 大抵の子供は、捨て猫や捨て犬を拾ってくる経験があると思います。

けれども拾った犬猫を飼ってもらえるのは稀です。

何故なら既に大人は、犬猫よりももっと大変な子供がいるからです。

では、それでも犬猫を飼ってもらうにはどうしたらいいか。

そんな子供の悪知恵の一つを書きました。


本当のところ、大人も犬猫が好きなのです。

それならば、一度飼ってみて貰えばいい。

そうすれば情が移って飼ってくれることでしょう。

子供にはあまり知られたくない悪知恵のひとつでした。


お読み頂きありがとうございました。


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