5 扉の向こうには不思議な体験がまっていました。(中)
容保は町人風の格好をして江戸の城下町に立ちすくんでいた。
「それで、一体ここは?」
(何故こんなところに・・・・?)
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容保は提灯を持ち替えた。
かつて容敬と見たそれは今も昔と変わらず、
周りの彫刻のせいで、黒い化け物のように見える扉からは
隙間風が入ってきて、容保を誘っているかのようである。
ゴクリと飲み込み、その扉に手をかけて押した。
扉はギーと錆付いた音を立てて開く。
そのまま、容保は誘われるように、黒い化け物の中に入っていた。
中は入り口よりも大きなつくりになっており、裕に馬1頭通れるくらいの板張りの通路になってる。
提灯の火が消えてないところをみると一様、空気はあるらしい。
容保は一旦振り返るがすぐ向きを変えて何も見えない先を見つめて足を踏み出した。
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いったいどのくらい歩いただろうか?
自分が一歩一歩ふみ出す度、木の通路がきしみ大きくこだまする。
未知の世界に足を踏み入れる不安と好奇心が交差する。
「ん?」
容保が壁に触れたとき今までとは違う突起物が手にあたった。
提灯を使って照らしてみるとそれは箪笥が埋め込まれていた。
黒塗りで柄が金で描かれている。
容保は手をかけて恐る恐るゆっくりとあける。
中には、色々な職種、身分、年齢の着物が揃っている。
女郎から大奥の女中。
隠居から赤子まで。
「なんでこんなものが・・・・?」
悩んでみていても先に進まなければ意味がないので、
数本の簪、数枚の小判と三着の衣装を中にあった風呂敷に包み拝借し、
箪笥の引き出しを閉じてその通路を歩き出した。
(人も物を無断で拝借するのは心痛むが、仕方ない結のためだ。
後で、返しにくるとしよう・・。)
箪笥群を越えて、暫く行くと通路の板張りはなくなり、通路は土むき出しの地面となった。
そこからまた少し行った所に今度は2つに分かれる道を見つけた。
容保は先ほど拝借したものが入っている風呂敷を取り出すと中なら簪を取り出した。
「こんなこともあろうかと、拝借しておいて正解だったな・・。」
そして、自分が行く通路いや洞窟の入り口の右下に簪を突き刺す。
「よし、これで帰り、迷う心配がないだろう。」
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1つの角を曲がったとき容保はずっと先に光がこの洞窟を照らしているのを見た。
「光?」
思わず走り出してしまっていた。
「ハァハァハァ・・・?」
容保は目を丸くしていた。
「ここは?」
そこには小さな祠が安置されており、
その先の出口と思われるところに紙垂がさがっていた。
容保は音を立てないように出口に近づき外を見た。
目の前には賽銭箱。
そして右横には神社の本殿と思われるこじんまりとした社殿。
そしてその向こうに狐が両側に立っており、鳥居が構える。
町人がちらほらときているのが見える。
賽銭を投げ入れる音と鈴を鳴らす音も聞こえた。
「外に出たいが、この格好ではだめか。」
自分の着ているいかにも上等な羽織と袴を見える町人と見比べる。
「よし・・。」
そう呟くと容保は洞窟の中に今一度戻り、風呂敷の中に入れた着物を取り出し着替えた。
初めて袖を通す町人の服装に戸惑う。
(服は軽いが、ザラザラしているし、色目も悪い。これで着方はあっているのか?)
紺の半纏と腹掛鯉口シャツに股引、そして足袋。
火消しの格好に近いが、半纏に組み名と柄ないことから、大工だろう。
容保は今まで来ていた服を風呂敷に包むと、周りを伺いつつ外へ出た。
この神社の外にあったのは賑やかな街だった。
「!!!!」
(これは江戸の城下町ではないか!)
「なぜ、こんなところに・・・・?」
その時だった。
チリンチリン。
「・・・鈴の音?」
容保がその鈴の音のほうに目を向けると
そこには首に鈴を付けた太った猫がドカッと座っていた。
「あれは結が鈴をつけてやった猫ではないだろうか・・・。」
すると猫は容保と目が合うと「ミャ」と2回鳴く。
そしてついて来いというかのようにもう一度容保の方を見ると歩き出した。
本当はこの話上下で終わるはずだったのですが、
なんたのびてしまって中が追加されました。
どうでしょうか?