4 タマと失踪
これから話すこの話はいまだ誰にも話したことのない出来事だ。
なぜかわからないが今日は話すべきな気がする。
だから話そう。
梶原が信じたくなければれば空想話だと思えばいい。
私が初めて会津の地を踏むことが決まったころだった。(嘉永4年 4月)
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容保は一つの足音が自分の部屋に近づいてくるのを感じた。
書類から目を離し、顔を上げた。
それと同時に足音は彼の部屋の前に止まった。
「若様。頼母でございます。」
「入れ。」
「はっ。」
頼母が容保の前に手をついて座した。
容保からしても、頼母がそわそわしているのがわかる。
(結か。)
「何事か?」と容保は大体の想像をつけて頼母に尋ねた。
「姫が見つかりませぬ。」
(やはりな。)
「西郷。台所から軒下までよく見たか?」
「もちろんでございます。姫の隠れそうなところは探しつくしました。」
「そうか。いつからだ?」
「はあ。侍女の話によると、どうやら昨日からのようです。」
「どういうことだ?何故に私にすぐ告げなかった?」
ガッタッとと容保は立ち上がった。
「侍女の話だと夜、結様が部屋にいないことはよくあることだそうで・・・。」
「そっそれはどういうことだ?」いきなりの事実に頼母の襟首を掴む。
(いっいかんぞ!!!結。まだ8つだというのに!!!!!)
頼母が後ずさって答える。
「だっ大丈夫ですか・・・・?よく敏姫様、容敬様のところで寝られることが多いのです。
まだ、子供なのですよ。この間なんて大変でした。
若様のところで寝たいと駄々をこねはじめましてね。止めるのが大変でしたよ。」
頼母がうんざりとした顔をしてため息をつく。
「・・・だめなんだ?」と容保がつぶやく。
「??????」頼母の頭の中に疑問符が浮かぶ。
「何故、敏姫や父上がよくて、私はだめなんだ?何故に止めた??」
頼母の襟首を掴む力が強くなる。
「・・・・・。いや、それは普通にとめます。
結様とて、いくら小さくとも一応女子ですぞ。」
ますます頼母が容保から引く。
ガーンという文字が容保の後ろに見えたがあえて頼母は無視した。
「・・・・そうか。」容保がフラ~ッと部屋の扉のほうに向かいはじめた。
「わっ若様!!」と頼母が容保に結を探さないようにと意を含んだ声をあげる。
「なに心配することない。・・・・・・稽古だ。」
そう安心させるように微笑み自室を出た。
(さて、お転婆な妹を持つと大変だ。)
容保の体の方向は道場と逆の方向に向いて歩を進めていた。
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「本当にどこにもいない。」
容保はとても温厚な性格でめったに額に皺をよせることはない。
しかし、結のこととなるといても立ってもいられなくなって
すぐに廊下を行ったり来たりするぐらい心配にになってしまう。
(結はどこにいってしまったのだ?
誰かに連れ去られたのであるまいか?
いやそれは線が薄い。出入り口には門番がいる。ではどこから?)
容保が止まった。
「もしかして・・・・。結のことだから。」
容保が急に足早に歩き出した。
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容保はある木製の厚く大きな扉の前に立っていた。
それはこの松平家の家を継ぐものだけが知ることができる屋敷の隠し扉である。
代々父から子へと『我が子よ。四面楚歌の時の他 この扉を開くべからず。』と伝えられていた。
容保は提灯を持ち替えた。
幼少時代に見たそれは今も昔と変わらず、
周りの彫刻のせいで、黒い化け物のように見える扉からは
隙間風が入ってきて、容保を誘っているようである。
ゴクリと飲み込み、その扉に手をかけて押した。
扉はギーと錆付いた音を立てて開く。
そのまま、容保は誘われるように、黒い化け物の中に入っていた。
設定が大変でしたよ。
あんまり容保が年取っちゃうと、イロイロ会津藩主としてやることが増えちゃうので、
年若く設定しました。そしたら、家茂やハジメが若すぎちゃうじゃないの!!!
でも・・・。もう考えるのイヤ・・・。
なので、テキトーに話をこじ合わせました。
細かいところの突っ込みはなしで、大目にみてやってください。
<頼母のひとりごと>
「・・・・そうか。」容保がフラ~ッと部屋の扉のほうに向かいはじめた。
「わっ若様!!」と頼母が容保に結を探さないようにと意を含んだ声をあげる。
「なに心配することない。・・・・・・稽古だ。」
そう安心させるように微笑み自室を出た。
・・・うそだ。
今の微笑みはうそだ。しかし、あえてそこは気づかなかったことにする。
「ふうー。さてと。」
私は自分の襟を正した。
うちの若様は結様のことになると、おかしくなってしまわれる。
普段は歳の割りに落ち着いていて、一生懸命藩主になるために勉強をつまれている。
自慢の若様なのだがな・・・。
そんな若様には何があっても敏姫様や容敬様以外に
私や田中様のところでも結様がお休みになっていたなんていえやしない。
先ほど言ったら・・・・。いやおそろしいので考えるのはやめようか。
それにしても結様の寝顔はとても愛らしかったな・・・・。