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2 ソラの落し物

あれは嘉永3(1850)年。

私が16で、まだこの会津の江戸屋敷に来てそれほどたっていないころのこと。

暑い夏の日の夕立の後。

私が弓術の稽古を終え、自室に戻る途中のことだった。

会津の夕焼けは天守閣から見るのが最高だときいていが、

私はこの江戸屋敷の鍛錬場から自室に行く途中に見えるに夕焼けも

劣らなく美しく見えるのではないかと思っている。

燃えるような夕焼けを少年から青年に成長途上の体に浴び、

元々病弱で色白の容保の肌が褐色に染まる。

(わたしは会津の地と人民を愛しを容敬様の腕となり、支えていかなければならない。

 そのようなことがわたしにできるのだろか・・・。 )


そして、まだ見たこともない愛すべき会津の城下町を目の前に広がる江戸の町を重ねた。



その時だった。

何かが上から落ちてきた。


(危ない!!)


ドサッ


いきなり腕に重みが加わり、まだ少年の未熟な筋力は

その重力に耐え切れなく、しりもちをついてしまう。

容保は目を落ちてきたものに向けた。

それは桃色の振袖を着た少女だった。

(なぜ、上から人が降ってくる?

 しかも、6つくらいの少女じゃないか。)


容保は上を見上げるが当然そこは夕焼けに染まる空があるだけであった。

もう一度その少女に目を落とす。


「この振袖は高価だろう・・。

 どこかの姫か、それとも豪商の娘かが?

 とにかく、西郷と土佐を呼ぶしかあるまい。」


容保は少女を自室に横たえさせ、自分の上着をかけた。

そして、小姓に言いつけ小姓頭の西郷頼母と田中土佐を呼ばせた。



**************



儀礼的な挨拶をして頼母と土佐が自室の隣の執務の間に入室する。

なかなか目を天井に向けたまま最初に口を開かない容保に土佐が聞く。


「・・・・若様。何用でございますでしょうか?」

「フム・・・。実は子供が空から降ってきた。」

しっかり二人を正面から見つめ容保が言った。

「「はあ・・・。」」


土佐と頼母二人の頭の上に?が浮かんでいる。

容保は立ち上がると隣の自室に寝かせておいた少女を抱き上げると、

二人の前に連れてきた。

そして、この少女が空から降ってきたと説明した。




すると土佐が顔を真っ赤にしていった。

「若様!!これは何かからさしむけられた隠密に違いありませぬ。

 直ちに絞り出すだけ絞って、首をはねなければ!!!!」



「・・。そうか頼母、お主はどう思うか?」

容保は頼母の方に顔を向けた。

まだ21歳という若さの頼母は一度その少女の顔を見ると容保を正面から見た。


「若様。このような罪のない少女の首を刎ねるのは酷でございます。

 どうぞお命だけは。後は未熟者の某にはわかりませぬ。

 やはり上様に相談されるのが良いかと。」


容保は自分の腕の中にいる少女に目を移した。


(この娘は隠密ではないだろう。

 わたしがこの子の場所を作ってあげなければ。

 不思議なことだ。どこの誰ともわからないのに。)



*************


容敬の元に赴いた容保を中心とする3人は、事情を説明した。


「そうか・・・。頼母、その子をわたしに。」


「はっ。」


容敬が少女を頼母から抱き取る。


「容敬様!!隠密かも知れないのですぞ!!!

 おやめください。上様に何かあったら」


土佐がとっさに容敬の抱いた少女に手をのばそうとした。


「よい。土佐。」


容敬が土佐を制止する。


「がっしかし!!」


「土佐黙れ。」


容敬が土佐の手を払い少女を抱えなおした。


「はっ!!」


容敬は少女を愛おしそうにまた、懐かしむように目を細めた。


(お敏の小さいころを思い出す。顔は似てるとは言いがたいのだがな。)


すると腕の中で少女が動き出した。

「ん~ん」と目をこすり、起き上がる。

美人とはいえないが、愛嬌のあるくるりとした少しつり目が、

容敬、容保、頼母、土佐へと動いた。

そして、自分を抱きかかえている容敬へと目を戻すと口を開いた。


「ここはどこ?あなたはだあれ?」


「ここは会津。わしは容敬じゃ。」


少女はまた目をくるりと回りにむけ戻して容敬の問う。


「結のお母さんはどこ?」


そう言う彼女の目には涙がたまっているのだが、

流さないようにしているのが良くわかった。


(強い子じゃな。)


容敬の目がますます優しそうに細くなる。


「母上が目覚めたとたんいなかったのだから、さぞ辛かっただろう。」


容敬はその大きくごつごつしている手で少女の頭をなぜる。


「我慢しなくていいのじゃぞ。泣きたいときは泣くほうがいい。」


すると、吹っ切れたのは彼女の目から大粒の涙が流れ出した。


「上様!!お着物が!!」


土佐がまた懲りずに少女に手を伸ばす。


「土佐。いいのじゃ。このままで。」


容敬は大粒涙を流し自分にしがみつく少女に目を落とした。






(どれくらい泣いただろうか?


 私を見つめるその瞳は真っ赤に腫れあがっている。

 しかし、この娘の眼光は強い。

 この少女の涙は枯れたのではない、自ら止めたのだ。

 目の前の現実から逃げることをやめ、立ち向かうために。

 だから、この娘の眼光は強い。

 それで、わたしは尋ねた。


「おぬしの名は?」


少女は眉をひそめて答える。


「結。」


「よし。結よ。今日からお主の名は松平結じゃ。覚えておけ。」


容敬は目を細め結を見た。




「容敬様!!」「殿!!」


容保と頼母が同時に声をあげる。




本人の結はなぜかまだ眉をひそめている。

その目はなんでそんな名で呼ばれなければならないのかといっているようであった。

その表情がまた可愛いと容敬はますます目を細めた。


「とっ殿!!!私は断じてそんなこと許しませんぞ!!!」


土佐が容敬の袖をビュンビュン引っ張る。


「土佐わめくな。そして触るな。結が落ちる。」


まとわりつく土佐を足蹴にする。


そして、容敬は容保をみた。


「この娘は、お前の妹じゃ。

 この娘の責任はお前にある。

 一国を統治するのは子を育てるのに似ている。

 やってみろ。我が子よ。

 期待しておるぞ。」


容保は姿勢を整え頭を下げた。


「はっ。必ず・・。」


容保の目頭が熱くなる。


(容敬様が、この養子の私に・・。)


こうして、この少女(結)8歳は容敬の養女となったのだった。


主人公、ほとんど寝てましたね。



 結:えー。兄上。わたしのこと6歳だと思ってたの!!ショック。

容保:うっ。それは兄上が悪かった。な?

    それにそれだけ結がかわいかったということだ。

 結:そうやってごまかして・・。どうせチビだもん。

結、しゃがんで地面に文字を書きイジイジしだした。

容保:ゆっ結よ。そういじけるな?兄上が面白いものを見せてやるぞ。

 結:ホント?

結が目を輝かせて立ち上がった。

胸をなでおろす容保であった。

完全に結に容保は振り回されています。



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