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2、馬車での思い出話


 実家へ帰還中のラピスら一行は馬車で揺られる。


 ラピスの頭も揺れている。


「ラピス?寝てもいいわよ」

「ん?ナタリー……大丈夫よ……寝てないわ。目を閉じているだけよ。そう……まばたきよ」


「ラピス……それを寝てると言うのよ」


「ランスの体温が温かくてね」


 ラピスに膝枕されて眠るのはランスだ。ランスの年齢13歳だ。5歳の時にルキウスに拾われて影として師弟関係となった。この可愛らしい顔のランスの将来は女泣かせの予感しかない。


「ラピス、私の膝、空いてますよ」


 ポンポンと自分の大腿を叩くのはルキウスだ。


「ルキウス?ちゃっかりラピスを呼び捨てにしてるわね」

「おや、あまりにも自然で私も気付きませんでした」


「………………」

「ラピス……寝てるわね」


「可愛らしい寝顔ですね。メアリー場所を交代しろ」

「何故、私には口が悪いの?」


「さぁ、メアリーだから」


「対価は?」

「は?対価を求めるのか?」


「そうね〜。ラピスとの出会いを教えて」

「わかりました。先に場所の交換です」


 馬車内でラピスの隣にいたメアリーは向かいの席のルキウスと場所交換をする。


「ふふっ、ラピス……さぁ私が膝枕します」


 ゆっくりとラピスの身体を自身に寄せると自然にラピスはルキウスの膝へ頭を乗せる。ルキウスはラピスの髪で遊びだす。


「そうですね。ラピスと初めて会ったのは彼女が5歳でした。私はその頃……7歳の孤児で路地裏生活でした」



「ルキウスが孤児?」


「えぇ……そうです。私は運が良かった。後にラピスの父……我が主人に仕える事になったのですから。ここからラピスと会うまでは影の先輩から聞いた話です」



――――――


「ラピスが5歳の誕生日を迎え、主人はラピスに買い物を頼みました。『はじめてのお使い』です。あの街は家族の誰かは主人に雇われている為。皆ラピスを家族の様に見ていました。ラピスに頼んだ買い物は『ナイフ1本と鈍器です』」


「は?5歳の子にナイフと鈍器?」

「なんとも暗部一家らしいですよね。続けますね」



 ラピスの買い物は暗部の者達がこっそり護衛してました。勿論、街の人達も彼女の初めての冒険を見守ってました。

 途中、水溜りで転ぶというアクシデントはありましたが無事に買い物を終えたようで、上機嫌で迎えた帰り道でした。


 肉屋の店主から肉の串焼きをもらいベンチで食べていた時です。ラピスは見たのです。私が路地裏で数人の大人に囲まれて暴力を受けている所をね。


「え?街は安全なのでは?」

「今は安全ですが、あの頃は違ってました」


「ラピスは主人の子ですから安全です。表社会ではね。ラピスも一歩裏道に入ったら暗部一家のお姫様ではいられない世界が裏道にはあったのですよ」


「それでラピスは?」


「ラピスは肉の串焼きを頬張っていました」


「は?」


「はい、気にせず私達を眺めながら串焼きを食べてましたね。とても美味しそうに、私は殴られながらも横目にラピスを見て可愛らしい子だと。あの笑顔を見ながら死ねるなら悪くはないなと思いました。続けますね」


 ラピスは串焼きを食べ終え、おもむろにリュックを漁りました。彼女がリュックから取り出したのは鈍器でした。そして裏社会と表社会の境付近まで近寄って来たのです。


 街中は騒然としてました。そして彼女は叫びました。




「あっ、大切な私の鈍器が……お兄ちゃん達危な〜い」


 そう言い鈍器を私達の方へ投げたのです。しかし彼女は5歳です。鈍器なんて放り投げるのには力が無さ過ぎでした。


 鈍器は彼女の足元にポトリと落ちただけでした。


 裏社会の大人は境界線へと向かいました。

「お嬢ちゃん危ないぞ。こっちにおいでと」

 街中にはピリピリとした空気が流れたのを私は感じました。


「お兄ちゃん達は何してるの?今日は私の『はじめてのお使い』なのよ」


「そうか買い物できたのか?」

「はい。おかげさまで無事に買い物でしました。お兄ちゃん達は何してたの?」


「あの坊主をだな、皆で訓練してたんだよ」

「まあ、お兄ちゃん達は騎士様ですか?」


「いや……そんな訳ないだろ。この格好だ。それにそんなキラキラした目で見るな」


「お兄ちゃん達は騎士様ではないのね。しょぼ〜んですわ」

 落ち込むラピスをみた裏社会の大人達。


「調子が狂うな。お嬢ちゃんは、こちら側に来ては行けないぞ」

「どうして?」

「俺たちは……弾かれ者だからな。この通り仕事もない。時々、裏に迷い込む旅人と遊ぶ位だ」


「旅人と遊ぶとお金をもらえるの?」

「……まぁな」


「お兄ちゃん達は強いね。そちらには強い人が沢山いるの?」

「いや。俺達が一番強いな」

「カッコいいね」

「……いや」


「そう……それならパパにお願いして騎士様になる?」

「は?俺らが騎士に?バカな事言うな」


「私は5歳になったから護衛騎士募集中なの。お兄ちゃん達は強いのでしょ」


「お嬢様。ダメです」

思わず護衛の1人が声をかける。


「ほらな、俺達はダメだ。大人の言う事を聞くんだ」


「うっ……うっ……嫌。あの顔の傷が強そうでカッコいいの護衛騎士なの」


「おいおい、怖くないのか」


「カッコいいの。パパにお願いする。パパがいいと言ったら護衛騎士になってくれる?」

「……パパがいいと言ったらな。さっさと帰れ」


「いや……もう少しここにいる」

「おいおい、お前ら護衛だろ。さっさと嬢ちゃんを連れて行け」

「お嬢様、行きますよ」


「いや……。そうだわ」


 再びリュックを漁り出したのは飴玉だった。

「コレあげるから護衛騎士になって」

「………………」

「ダメ?」


「……わかった。パパがいいと言ったらな。だから今日は帰れ」

「あの子が欲しい」

 ラピスが指を刺すのは1人の少年だった。そして、再びリュックから出したのは可愛らしいクマちゃんの財布だった。


「これは、私の宝物なの……物々交換よ」

 そして有無を言わさず財布を裏側へと転がす。


「クマちゃん……私の……クマちゃん……うっ……」


「泣く程のお気に入りいりなら、こっちに入れるな。ほら」

 裏社会のボスは財布をラピスの足元に投げる。


「だめよ。騎士様、私とクマちゃんは別れを告げたのよ」

 再び財布を裏側に転がす。

「………………おい」

「また、明日クマちゃんの様子を見に来ますわ」


 そしてラピスは、屋敷に戻りましたとさ、おしまい。



「これが、私とラピスの出会いです」

「…………終わり?」

「はい、対価分のお話です」

「その後が気になるじゃない」

「本日の宿に着きますね。私が部屋まで運びます。本日は護衛としてラピスの部屋で待機してもいいですか?」


「ダメです」


「んっ……お姉ちゃん」

 モゾモゾと動くランスはラピスに抱きつき豊かな胸に顔を埋める。

「羨ましい限りです。私もラピスの胸に顔を埋める日が来るのでしょうか」


「………どうかしら。さぁ着いたわ。私はランスを抱っこするわ。ラピスをお願い」


 宿に到着し部屋にラピスを運ぶ。ベッドに寝かせると彼女はふにゃりと笑う。

「可愛いですね。おやすみラピス。ランスはこの部屋に泊まらせてください。床で問題ないので。私は馬車に行きますね」




 馬車に戻るルキウス。馬車で待機すると騎士に話しかけられる。

「久しぶりだな。元気だったか?」

「おかげさまで」

「随分と懐かしい話をしていたな。しかし…その顔のキズは俺の真似か?嬢ちゃんは俺の傷がお気に入りだからな」


「偶然ですよ。感謝してください。貴方達が騎士になれたのは私のおかげですからね」


「元々は、お前が俺の財布を盗むからだろ」

「いいじゃないですか。かわりに違う財布を手に入れたのですから。まだ持ってるのですか?」


「当たり前だ。この財布は幸運の財布だ」


 ポケットから取り出したのは、厳つい顔の騎士には似合わない可愛いクマの財布だった。


「嬢ちゃんのおかげで俺達は裏から出る事ができた。感謝してもしきれない」

「ふふっ、今じゃ。元裏社会組は最強の表部隊になりましたからね」

「しかし、嬢ちゃんは暫く見ないうちにイイ女になったな」

「渡しませんよ」


「当たり前だ。娘みたいなもんだ。いや裏社会の女神だ。今後、お前が嬢ちゃんを傷つける様な事をしたら俺達は元裏社会総出でお前を殺すからな」


「大丈夫です、でも一度だけラピスを傷つけ泣かす事になるはずです。これは仕方ない事ですので」

「そうだな。その時だけは許す。お前、経験あるのか?」

「ないです。でもイメージトレーニングはしっかりしているから大丈夫でしょう」


「まあ、頑張れ。1番頑張ったのはお前だからな」

「気持ち悪いから、褒めないでくたさい。それでは、おやすみなさい。メアリーから伝言です。明日はみんなで朝ごはんを食べようと言ってました」



――それでは、また明日――

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