元王家の影
1話完結の連載を始めてみました。
「おいラピス、お前とは婚約破棄だ」
「は?エラルド殿下?」
それは突然、王家主催のパーティーで始まった。壇上にいるのはこの国の第一王子のエラルド。そして、エラルドを見上げているのは婚約者のラピスだった。
「もう……うんざりさだ。いつもお前は口煩く、鍛えろ。もっと周囲に目を向けろと何度も何度も……私は真実の愛に目覚めたのだよ。キャンシーこちらへ」
ヒラヒラのドレスを纏いエラルド殿下の横に並ぶのはキャンシー男爵令嬢である。殿下の恋人、真実の愛の相手として社交界で2人の関係は有名であった。
「ここに宣言する。私エラルドはラピスと婚約を解消し、キャンシーと婚約を結ぶ」
会場からは大歓声の祝いの言葉と拍手が2人を包む。
「はい、エラルド様殿。この方が殿下の婚約者……元・婚約者。これからはエラルド殿下の事は私が守りま……ひゃ」
金属がぶつかる音とともに令嬢の足元にはナイフが二本転がっている。
「おい……何だ?」
ラピス2人の足元に落ちているナイフを拾う。
「殿下にはいつも言っていたでしょ。狙われているのだから行動には気を付けてとね。これからは私はいないのですから、死なないように気をつけてください。それから、キャンシーさん」
「はひ……」
「これからは貴方が殿下を守るのですから、あれくらいのナイフを捌けないと身体がいくらあっても足りませんよ」
「ラピス……お前は今まで」
「はい、ずっと護衛してましたよ。殿下がキャンシーさんと逢瀬を重ねている間も……悲しかったですわ。自分の婚約者と浮気相手が愛を囁き合っているのを見聞きするのは……一応、嫌われていたとしても婚約者だったのですから」
「エラルド殿下……私には無理かも……」
「え?キャンシー……私と君は『真実の愛』で……結ばれているのだから」
ラピスは会場内に響く声で伝える。
「殿下護衛の任務は終わった。婚約解消された主人で申し訳ない。私は故郷に戻る。残りたい者は残るといい。私は直ぐ出る。共に帰る者は急ぎ支度せよ。1時間後に王城の門の前に集合だ」
「なあ、ラピス……私はどうなる?」
殿下は震えながらラピスに声を掛ける。
「殿下ですか?自分で身を守るか、婚約者に守ってもらうか……私の父と交渉し護衛を雇うかですね。今までは殿下の婚約者なので私が護衛もしてましたので、一般と同じ値段になるのでしょうね」
「なあ……何故私は狙われている?」
「さあ、何故かしらね。私は知らないわ」
「さあ、帰るわよ」
ラピスの声に会場内にいた給仕係と護衛騎士の半数が持ち場から離れる。その光景に夜会の参加者達の顔は青褪める。
「おい、ラピス何を勝手な事を」
「だって、私の部下ですから共に戻ってもおかしくないわ。雇い主は私よ。給金も私が支払ってますから。皆様、ご機嫌よう」
殿下と会場にいる参加者に礼をし会場を後にするのだった。
「ふぅ、荷物はこれだけね。案外少ないわね」
ラピスの私室には自分1人だ。部下には荷造りするよう指示した為である。ラピスは何もない空間に声を掛ける。
「今までお世話になりました。貴方のおかげで護衛は楽しかったわ。それに……貴方も私で遊んでいたのでしょう?浮気中の婚約者を護衛する私は……貴方にはどう映っていたのかしら」
ラピスの手元に一本の薔薇が落ちてくる。
「ふふっ……殿下は私に雑草の1つも送ってはくれなかったから嬉しいわ。貴方を連れて帰りたいのだけど雇い主と交渉させて」
「…………」
ゆっくりと姿を表す1つの影。
「雇い主に会わせくれるの?」
「わ、私が雇い主でもある」
「え?」
「俺を連れ帰りたいと言ったが本心か?」
「えぇ、貴方の腕前は一流ですから」
「そうか……まぁ、俺ならラピス嬢を守ってやれるぞ」
「まあ、いつも守る側だから守られるだなんで、なんて魅力的な言葉を」
「そうか」
「何故、殿下を狙っていたの?」
「ラピス嬢を悲しませているから。そして殿下を狙うとラピス嬢が出てくるからな。ラピス嬢との攻防は楽しい」
「……婚約解消したわ。これからの殿下は?」
「私があの男を狙う必要がなくなった」
「…………」
「しかし、あの男は他の国からも狙われている。ある意味、俺とラピス嬢がいたから安全ではあったぞ」
今まさにラピスのいない夜会会場は、騒然としていた。恐怖から会場を後にする参加者で入り口は大混乱であった。
「あら、私の部下の撤退はマズいかしら?」
「元々、王家の影もいるから問題ないだろアイツらの腕も悪くはないからな」
「……何度か対峙してるの?」
「いや、私の元部下だ」
「貴方は王家の影だったの?」
「……黙秘だ」
「ふふっ、黙秘と言うには話しすぎよ」
「で、俺を連れ帰りたいと言う気持ちは変わらないか」
「貴方は私よりも強いわね。私の部下として誘ったのだけど部下になってくれるの?」
「まあ……部下にするのかは帰りの馬車で決めたらいい」
「名前を聞いても」
「名前を言ってなかったな」
男はゆっくりと顔に着けた面とフードをとる。
「あら……」
「ん?あぁ、顔の傷だな……面を着けていた方がいいな」
「違うのよ……貴方の名前は」
男は顔に傷があるも整った顔にシルバーの瞳。ラピスは男を見つめる。そして……ラピスは言う
「貴方の名前はルキウス」
男は目を見開き
「覚えているのか」
「えぇ、だって命の恩人ですもの」
「そうだ、あの後……ラピス嬢の父上に影の仕事を教わり今に至る」
「早く教えてくれればいいのに〜」
「いや、戦いの最中に自己紹介は出来ない」
「確かに」
コンコンコン
「お嬢様、準備はいいですか?裏の者は先に出発しました。
数名は家族と共に後から向かうと……そちらの男性は?」
「彼はいつも私の相手をしていた暗殺者よ」
「ルキウスです。この度、一緒に戻る事になった」
「お嬢様ちょっと」
ラピスとメアリーは親友でもある。
「ルキウスってラピスの初恋の殿方と同じ名前ですわね」
「ちょっと……メアリー」
「まさか……」
「えぇ、その彼よ。元王家の影みたいよ」
「そうなのね」
「ちょっとルキウス……話をいいかしら」
ぐいぐいとルキウスを壁の方へ押しやるメアリー。
「はい」
「わ、私を消さないわよね」
「大丈夫だ。消す依頼はきてない」
「そう……それならルキウスの目的は何?」
「ラピス嬢と一緒にいたい」
「どういう意味で?部下や同僚?それとも男として?」
「……後者だ」
「そう、私と取り引きしない?」
「内容にもよる」
「貴方、元王家の影なの?」
「……黙秘だ」
「ラピスから聞いたから黙秘は通じない。あの人……小さなチョロチョロしている」
「ん?ランス……だろうか?他の特徴は?」
「……目元にホクロのある……」
「ランスだな……わかった協力しよう。その代わり」
「任せて」
「ラピス嬢。数分待っててもらえるか」
「はい」
すぐに姿を消すルキウス。
「ねえ。ラピス?」
「何?メアリー」
「この際、婿として連れ帰れば?」
「は?ルキウスは部下になるつもりでいるわよ」
「いやいや。あれは一種のストーカーよ。しかも裏社会でNo.1の腕前よ。言ってたじゃない『私より強い男が好き。そんな彼に抱きしめられたい』と。他の男と婚約したら、あの男はまたラピスの婚約者を狙い続けるわ。だから夫にすれば全て解決よ」
「ちょっとナタリー。言わないでよ恥ずかしいわ」
「ラピス嬢?抱きしめたらいいのか?」
「ひっ、ル、ル、ルキウス?」
「今戻った。で、強い男に抱きしめられたら嬉しいのか?私はラピス嬢を抱きしめたいが」
「ラピス、丁度いいじゃない。試してみたら?」
「そ、そう?いい?ルキウス」
「あぁ、おいでラピス」
(あぁ、逞しい身体……好き)
(あ……ラピスの胸が当たっている……柔らかい)
「ちょっと師匠、何してんだよ」
「あぁ、ランス。君を所望するお嬢さんがいるから、私と共に行くぞ」
「は?何処に?」
「ラピス嬢のご実家だ。そうだな……給金は私が今の倍だそう。メアリーいいかな?」
「はぁはぁ。ランス君?お姉さんが君の荒削りなナイフ使いをしなやかに変えてあげるわ」
「ちょ……何?この人、変態がいる。師匠の他にも変態が」
怯えるランス。
「ランス君?お姉さんよ。今ならもれなくオリジナルナイフを作ってあげちゃう」
「何?この人」
「ナタリーは侍女も護衛もこなすけどね。本職は鍛冶屋よ。ホレ」
ラピスはナイフを一本ランスに投げる。ランスはナイフを見る……見る……見る。様々な角度から。
「ちなみに。そのナイフは私専用なのよ。ランス君だっけ?君は少しだけ握り方がね。おいで」
トコトコと歩きラピスの元に行く。
「ほら、ここを持つのよ。指の開きはこの位、ナタリーは指が毎回同じ所に来るように調整してくれるわ。ほらやって」
「こう?」
「もっと開くの」
「ここ?」
「ん〜そこ」
「ほら、もっと腰に力を入れて、グッと。そう、いいわ」
「お姉さん……いい匂いだね」
「そう?さあ、的は……コレに当てて」
ラピスはナイフを壁に向かって投げる。
「お姉さん、凄いスピード」
「さあ、ランス君はナイフに当てるのよ」
「お姉さん、当たったらさ……オッパ…(ゴンっ)……イ」
「ランス?いけませんよ」
「師匠。すいません」
「ランス君は私のオッパイをどうしたいの?」
「あの……お姉さんのオッパイに顔を(ゴンッ)です」
「よくわからないけど、さあ、投げて。そうね2回投げていいわ」
「わかった」
ランスはナイフを構える。
「ランス君。そう、そのまま」
ヒュン――――――ゴン――――
「あ……凄い、投げやすい。お姉さん、僕……」
「さあ、あと一回よ」
「うん。(オッパイ……オッパイ……)」
ヒュン――――(よし、オッパイはもらった)――――
――――ガヂン――――(え……)
「あ……師匠?」
「手が滑りました」
床にはルキウスのナイフが落ちている。
「師匠、今……ワザとでしょ。酷い……師匠、うっ、ぐずっ……」
蹲り泣くフリをするランス。
「ルキウス?ダメじゃない」
「……手が滑った」
「ランス君、とっても上手だったよ。おいで」
スッと起き上がるランス。目指すはただ1つ。そう、腕を広げて待つ宝の元に。
「お姉さん……僕のナイフ……師匠が……(はぁ、オッパイ柔らかい、そして……いい匂い)、頑張ったのに」
「はいはい、よしよし泣かないのよ。ルキウス……めっ」
「ラピス嬢……私にも教えて」
「は?」
「私もナイフ……上手く使えない」
「ルキウス、当てたわよね」
「たまたまです。私も教えてもらいたい」
「ぶぶっ、随分と似た師弟ですね。ラピス、まだ時間あるし教えてあげたら」
「ルキウスの方が上手でしょ」
「ラピス嬢、お願いします」
「わかったわ」
「ちょ……ルキウス、デカいから届かない」
ルキウスの後ろに回るもルキウスはラピスの頭二つ分背が高くガッチリしているため、ラピスはナイフを持ち後ろから抱きしめる変態野郎である。
「これならどう?」
ルキウスはラピスを後ろから抱きしめる。首筋に頭を寄せてスリスリする。
「ラピス……いい匂いがします」
「ルキウス、耳元で話さないでよ」
「さて、あのナイフに当てたらご褒美ですよね」
「ちょっと……ランス君だけよ」
「え…………」
落ち込むルキウス
「そんなに落ち込まないでよ」
「ご褒美……欲しいです」
「わかったわ。ランス君、貴方はルキウスのナイフを撃ち落とすのよ」
「僕が……師匠の?」
「ランス、始めますよ。ランスの準備が出来て5秒後に投げますよ」
「ラピス嬢……ご褒美忘れないで」
「師匠」
「5……4……3……2……1……0」
――――ヒュン――――ガヂン――――ヒュン――――ガヂン――ヒュン――――ガヂン――――ヒュン――ガヂン――
「ラピス……あとナイフは何本隠してる?」
ルキウスのナイフを撃ち落とすのはラピスだ。フランは2人の速さについて行けなかった。
ルキウスはラピスの身体を弄りナイフを探す。スカートの裾から手を入れゆ、ゆっくりとラピスの肌を堪能しながら大腿部に固定しているナイフをゆっくりと床に落とす。カチャカチャとナイフは落ちる。
「ココにも隠してるの?」
ルキウスの手はゆっくりと大腿部を撫で上げる、向かう先は秘境である。
「んッ……ルキウス……ダメよ」
「ラピス……大丈夫」
ルキウスはラピスの首筋にキスをしながらナイフを投げる。
――――ヒュン――――手はラピスのショーツに手を掛け、そして横紐を摘む――――ガヂン――カランカラン
「はぁ、はぁ、お姉さん、僕……」
床に落ちるルキウスのナイフ。
「ランス君……」
「やった、やった。師匠のナイフを僕が……お姉さんを守ったよ」
「ランス君、私の専属の護衛になって」
「はい。よろしくお願いします」
「ルキウス……あなたは……ここにいる?」
「……すいません。調子に乗りました」
「さあ、みんな帰るわよ。ルキウスは壁のナイフを回収して」
「わかりました」
そうして、4人は馬車にのりラピスの実家のある辺境へと向かうのだった。無事にラピスは実家に戻れるのか?
「ラピス……長い旅ですから、ゆっくり行きましょうか」
――――続く――――
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