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聖人君子の仮面を被った男②

 二人の執念が、純平の秘密を暴き出した。

 純平は週に三度、会社の近くにあるフィットネス・クラブに顔を出し、体を鍛えることに熱心だった。毎週、月曜日、水曜日と金曜日には、午後八時半に帰宅する純平の姿が防犯カメラの映像に記録されていた。

 ところが、純平が通っていたフィットネス・クラブの入退場の記録と突き合わせてみると、必ずしも週に三度、フィットネス・クラブに顔を出していないことが分かった。三か月前から週に一度は、定時に会社を退社した後、二時間ほど行方不明となってから帰宅している日があった。

「これは浮気ですね」と石川が言うと、「木を隠すなら森の中って訳ですね」と森。

 浮気であろうことは容易に想像がついた。だが、婿養子で次期社長の座を狙う純平にとって、浮気は致命傷になりかねない。誰にもバレないように、細心の注意を払っていたであろうことは想像に難くなかった。

「浮気相手を見つけ出すことは簡単ではないでしょうね」と石川は覚悟していた。

 予想通り、純平の浮気相手はなかなか判明しなかった。

 学生時代の友人や会社の同期、仕事での取引先の交友関係を洗って見たが、結婚後は艶っぽい話が皆無だった。表向き、純平は愛妻家の顔をしていた。

 壁に突き当たった。石川は「待てよ」と考えた。そして、フィットネス・クラブに通って、体を鍛える以外、飲みにも行かず、会社と自宅を往復するだけの毎日だった純平が、女性と知り合う機会があったとしたら、フィットネス・クラブ以外にありえないのではないかと思い当たった。

「その線で調べてみましょう」森も同意してくれた。

 純平は週に一度、フィットネス・クラブをサボっているとは言え、残りの二日はきちんとフィットネス・クラブに通っている。純平は携帯電話や会社のメールに女性と連絡を取った形跡を残していないので、待ち合わせは直に会って決めていたことになる。となると、純平と同じ時間帯にフィットネス・クラブに顔を出している女性が浮気相手である可能性が高いのではないか――そう考えた。

 フィットネス・クラブの入退場記録から、純平と同じ時間帯に顔を出している女性をピック・アップした。対象者が二桁となり、ちょっと数が多過ぎた。そこで今度は、ここ三か月で純平がフィットネス・クラブをサボった日にフィットネス・クラブに顔を出している女性を対象者から除外してみた。二人が余所で落ち合っているとしたら、浮気相手の女性がフィットネス・クラブに顔を出すはずがないからだ。

 これで対象者は一気に六人にまで減った。

「さて、どうしますか・・・」

「もう一息ですね」

「ひとつ、思いつきました」森が言う。名案が浮かんだようだ。

 フィットネス・クラブをサボった日の純平の地下鉄のICカードの記録を調べて見た。純平がその日、どこの地下鉄駅で降りているのかを調べ、六人の女性の住所と照らし合わせて見たのだ。

 結果、一人の女性が浮かび上がった。

 ――野田真希。

 純平の浮気相手の可能性のある女性の名前だった。

 更に念を入れ、真希の自宅周辺の防犯カメラの映像を手に入れた。人に見られたくない純平は、真希の自宅で逢瀬を重ねていたと思われ、純平がフィットネス・クラブをサボった日の映像をチェックするだけで良かった。純平が会社を退社した後に真希の自宅を訪れたとしたら、大体の時間も推測できた。

「あった!ありました」

 石川が叫んだ。地下鉄駅から真希の自宅に向かって歩く純平の姿を、防犯カメラの映像で確認することができた。

 純平殺害当日の真希の行動が徹底的に洗われた。そして、捜査結果を受け、真希を呼んで取り調べが行われることになった。

 都内の通信会社に勤務するOLの真希は、県警への出頭を命じられて、「何故、自分が警察に呼ばれたのか分からない」と言いたげな、困惑の表情を浮かべていた。

 文豪コンビが取り調べに当たる。質問をするのは森だ。

「野田さん。先日、自宅で殺害された林純平氏、ご存じですよね?」

 俯き加減で椅子に座り、森の顔もまともに見ることができない真希に対して、いきなり核心に踏み込んだ質問を投げかけた。

 真樹がおどおどと答える。「いいえ、存じ上げません」

「林氏と同じフィットネス・クラブに通われていますね。しかも、林氏がフィットネス・クラブに顔を出す日には、必ずあなたも顔を出しています」

 広瀬がフィットネス・クラブの入退場記録を真希に見せた。入退場記録のリストの中で、二人の入退場記録が黄色い蛍光ペンでマーキングされていた。二人は常に同じ日にフィットネス・クラブに顔を出しており、しかも入退場の時間まで、二人並んで記録されていることが多かった。

「偶然だと思います」

「林氏が妻帯者と言うこともあって、随分と人目を気にされていたようですね。お二人はフィットネス・クラブで知り合った、違いますか?」

「・・・」真希が黙り込む。

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