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リンケン・グループ③

「ざっと以上がリンケン・グループの創業者一族の由来です」と森が言った。

「ざっとと言う割に、随分、詳しく調べましたね~」

「彼を知り己を知れば百戦(あやう)からずと申しますからね」

「おっ!今度は孫子ですか」

「よくご存じで」

「それくらい知っています。馬鹿にしないでください。でも、林家の奥さん、無罪だったとすれば、身に覚えのない罪で捕まったことに抗議してハンストを行っていることになりますね。ウコンさん、満員電車の中で痴漢に間違われたらと思って、ぞっとしたことはありませんか? いくら身の潔白を訴えても誰も信じてくれない。そんな状況に追い込まれたら、ハンストでもやって無実を訴えるしかありませんからね」

「その例えはどうかと思いますよ。僕は満員電車に乗る時は片手に吊革を持って、片手に本を持って乗りますので、痴漢に間違われることはありません。さて、事件調書に目を通しておきましたが、いくつか疑問点があります」

「早速ですか。流石はウコンさん」

「先ず、奥さんが犯人だとすると、防犯システムが作動していなかった点が気になります」

「確か、契約更新が遅れていて、作動していなかったのですよね」

 大手企業の創業者の家系である林家には、完璧とも言える防犯システムが設置されていた。

 警備会社と契約し、防犯カメラで屋敷の周囲を二十四時間体制で監視し、屋敷に侵入しようとする不審人物を発見すると、アラームが鳴り、二十分以内に警備会社のスタッフが駆けつけるという防犯サービスを受けていた。

 ところがこの防犯システムは事件当夜、作動していなかった。

 単純な理由で、防犯契約は一年更新となっており、林家では防犯サービスの更新を警備会社に申し出ていなかった。無論、警備会社からは契約が切れることを、何度も契約主である純平に伝えてあった。だが、純平から契約を更新する旨の返事がなかったのだ。

 ――余所の警備会社の防犯サービスと比較してみたい。

 愚図愚図と純平が契約更新を引き伸ばしている内に、防犯サービスは期限切れを迎えた。犯行は防犯サービスが期限切れを迎えた絶妙な時期に行われた。

「犯人が奥さんだとすると、防犯サービスが期限切れを迎えていたことを当然、知っていた訳でしょう。覚悟の上の犯行なら、わざわざ防犯サービスが期限切れを迎えた絶妙な時期を選んで、犯行を実施する必要があったのでしょうかね」

「たまたまではないですか」

「灯りの問題もあります」

「灯りの問題ですか?」

 森が気になっているのが、林家の灯りが点灯した時間のようだ。高級住宅街とあって防犯カメラを設置してある家が近所にあった。警察で近所の防犯カメラの映像を全て取り寄せて事件当夜の林家の状況を確認してあった。

 無論、自分の家の防犯目的で設置された防犯カメラだ。他家の様子は、はっきりと映っていない。近所の家の車庫の前を監視している防犯カメラの映像に、林家が僅かに映っているものがあった。

 その映像を見る限り、林家に灯りが灯ったのが、午後六時四十分だった。当日、日没は午後六時八分だった。林家に灯りが灯った午後六時四十分は、辺りは真っ暗であったはずだ。

 林純平はタイムカードから定時である午後五時三十三分に、会社を退社していることが分かっている。会社から真っ直ぐ林家に帰宅したようで、時間的に見て、帰宅後、直ぐに恵美に刺されたことになる。

 純平が「妻に刺された」と百十番通報をしたのが、午後六時二十二分、林家に灯りが灯った時間が午後六時四十分であることから、純平は真っ暗だった家に戻り、電気も点けずに家に潜んでいた恵美に刺されたことになる。

「普通、暗くなったら電気を点けませんか?」と森は言う。

「恵美は、夫の純平を殺害しようと、家で息を殺して待っていたからでしょう。不意を突くために、部屋の灯りを点けずにおいたのですよ。そして会社から戻って来た夫を、暗闇の中で刺し殺した」

「それは理解できます。ですが、理解できないのは、林氏さんが家に戻って来た時、部屋の中が真っ暗だったのに、灯りを点けなかったことです」

「あ、ああ~そうか」

 純平が家に戻った時、部屋は真っ暗だった。普通なら、先ず灯りを点けるはずだ。だが、純平は灯りを点けずに、暗闇の中、恵美に刺され、亡くなっている。

「しかも、通報があってから、灯りが灯るまで十八分あります。恵美は、夫を差した後、暗闇の中で何をしていたのでしょう? 床の上を這いまわる夫を平然と見下ろしていたのでしょうか。純平が携帯電話で救急車を呼ぶ声が聞こえたはずです。それを阻止することもできたはずなのに――」

「そうですね。確かに、事件はまだ終わっていないのかもしれません。さて、何から手を付けますか?」

「関係者から話を聞いてみましょう」

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