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リンケン・グループ②

「妻が夫を殺害――と言う、よくある事件なのかもしれませんよ」

「でも、奥さんは犯行を認めておらず、ハンストをしているじゃありませんか。動機がはっきりとしていませんし、事件はまだ終わっていないのではないでしょうかね」

 恵美の絶食が三日を越え、弁護士がリークしたことにより、ニュースになっていた。

「そうですね」

「少し調べてみましょうか」

「タカギーズの事件ですよ。横から手出しするのは、マズいんじゃありませんか」

 言い出したのは石川だ。

「我々の面子より、冤罪を生まないことの方が大事です。今回の事件では、その場で奥さんが逮捕されています。きちんと捜査してとは言い切れないでしょう」と森は言う。

 要は二人共、退屈していたのだ。

 刑事なんて、暇であることが一番の職業だ。ありがたいことに、このところ暇だった。だが、森は常に事件捜査に身を置いておきたいタイプの人間だ。

「そうですね~係長と相談してみます。新しい視点で事件を見直すことが必要なのかもしれませんから」と石川が上手いことを言った。

 係長に相談してみると、案の定、渋い顔をされた。それはそうだろう。高木たちの捜査が杜撰だったと言っているに等しい。だが、困っていたのも事実のようで、「新しい視点で事件を見直してみるのも良いかもしれない」と石川の言葉が気に入ったようだ。

「いいだろう。確かに視点を変えてみる必要がある。やってみてくれ」と最後には折れた。

「係長からのOKが出ました」

 森にそう伝えると、「そうですか。それは良かった。少し、リンケン・グループについて勉強しておきました」と言う。

「へえ~で、どんな会社なのですか? 陶磁器のメーカーだってことくらいしか知りません」

「色々、手広くやっているようですよ。リンケン・グループの創業者、林家の家系は室町時代にまで遡るみたいです」と森が解説を始めた。

 林家は林賢を始祖としている。林賢とは中国の明初に寧波衛指揮使を勤めた高官の名前だ。明初に「胡惟庸(こいよう)の獄」を受けて発生した「林賢事件」の首謀者の名前でもある。

 中国史上、最も卑賤な階級から皇帝にまで上り詰めた人物が明の太祖であり、初代皇帝の朱元璋(しゅげんしょう)だ。その治世の元号を取って洪武帝とも呼ばれている。朱元璋は貧農の生まれで、若い頃は托鉢僧となって全国を行脚し、糊口を凌いでいたと言う。要は乞食同然の身の上だった。

狡兎(こうと)死して走狗(そうく)烹らる」と言われる。兎が狩られてしまうと、猟犬が煮られるという意味だが、敵国が滅びると、建国に尽力した功臣は不要になり、殺されてしまうと言う意味だ。王朝の創世記に功績のあった武将は、敵国が滅びてしまうと、王朝の簒奪を狙う敵対勢力になりかねない。

 唯一無二の存在である皇帝となった朱元璋は、功臣の弾圧を始める。

 先ず、中書左丞相という宰相の地位にあった胡惟庸が朱元璋への謀反を計画したと疑われ、処刑されてしまう。胡惟庸を処刑後も朱元璋は密告を奨励し、実に一万五千人もの人間が「胡党」として連座し、犠牲となった。これを「胡惟庸の獄」と呼ぶ。

 次に「郭桓(かくかん)の案」と呼ばれる大規模な疑獄事件が発生する。朝廷の食糧を着服したとして郭桓という役人が処刑され、罪に連座する者が数万人に登ったと史書に記されている。

 郭桓の案の翌年に起こったのが「林賢事件」である。「林賢事件」は「胡惟庸の獄」を蒸し返す形で起きた。

 胡惟庸は処刑前に、寧波衛指揮使の林賢に、日本より朱元璋謀反への協力を取り付けて来いと密命を授けた。林賢は偽って罪を得て日本へ亡命した。三年の間、林賢は日本国王に根回しを行い、胡惟庸への協力を取り付けて帰国したが、時既に遅く、胡惟庸は既に謀反罪で処刑された後だった――というのが林賢の罪状だった。

「胡惟庸の獄」が起こった時、日本は足利義満の治世に当たり、朝廷は南北に分かれて争っていた。当時の足利幕府に、明に兵を派兵する余裕などなかったことは明白だ。朱元璋の言いがかりと言えた。

 リンケン・グループの創業者である林家は、この林賢を始祖としている。林賢が日本に残した遺児を足利幕府が保護し、現代にまでその血統が連なっていると、林家では称した。

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