5話 自己紹介
広い体育館の中で行われる入学式。体育館の入口から列をなして入っていく。そして用意されている椅子に一列に座る。似合わない白シャツに黒いカーデガンを羽織って、背筋をできる限り伸ばす。隣にも同じように背を伸ばす姉がいる。こういう時くらいは真面目にやるようにしてる。悪目立ちしたくないからという理由からだけど。
「新入生、在校生、起立!礼!」
ただぼーっとしながら行動しなきゃいけないタイミングだけしっかりしておく。入学式、めんどくさい。
「次に校長の後藤隆先生より………」
始まった、めんどくさいランキング1位が。校長先生の話って眠くなるんだよね。
「みなさん、ご入学おめでとうございます。校長の後藤隆です。手短に自己紹介させていただきます。…………………………………………」
いつ聞いても、違う世界でも、やっぱり校長の話は眠いのだった。
「翔、寝てたでしょ?」
「…半分は起きてた」
「はい、ダウト。校長先生の話のあたりから寝落ちしてた」
「うっ、返す言葉もございません」
「次は起きてること!」
「はい…」
入学初日に自分のクラスに向かいながらクラスメイトに説教をされる人なんているのだろうか。
「とりあえず勉強頑張らなきゃだなぁ…」
「まあ翔は地頭いいし大丈夫でしょ?」
「自分で言うのはどうかと思うがいい方だとは思う」
「いや、めちゃくちゃいいでしょ?!誰よ!私が必死に勉強してる横でゲームして、同じ場所受けて受かった人は?!」
「ごめんなさい」
まさしく俺のことだ。とは言うものの俺はギリギリで合格、彼女は上位合格だ。正確には次席だ。
「でもまさか姉ちゃんよりも上がいるとはね」
「私が一番驚いたよ、まさか負けちゃうとは。これで負けたの2人目だ。翔の本気以外で負けるのはなんか悔しい!」
必死に勉強をし続けている彼女は前世からほとんどのテストで1位を取っていたので1位じゃないとなんか俺もモヤモヤする。
「みなさんこんにちは。今日からここ、1-6の担任になった小林元樹です。これから1年間よろしく」
大柄な男性教諭が自己紹介をしている。入ってきたは少しざわつくくらいにはでかい。190cmくらいあるのではないのだろうか?
「ではいまから自己紹介をします。この紙に書いた後にしてもらおうと思います、10分後くらいで一回切るので貰ったら名前を書いて書き始めてください」
紙を受け取って内容に目を通す。よくあるような趣味や誕生日、得意なことの欄とは別にこの世界特有の欄があった。
「(これ能力書く欄あるじゃん、どうしよ)」
馬鹿正直に書くかは悩ましい。正直かなり…、というか強すぎるのでできる限りは隠しておきたい。
「ねえ翔、この能力のやつどうする?」
悩んでいると俺にしか聞こえない声で後ろの席に座る姉ちゃんが声をかけてきた。どうやら俺と同じことで悩んでいるようだった。
「正直書きたくはない」
「じゃあ書かなくていっか、"赤信号、みんなで渡れば怖くない"の理論でいこう」
「例えがうまいな。それ昔流行ったよな」
「懐かしいね〜」
「じゃあ出席番号が後ろの人から発表してもらうからなー」
少し懐かしい気持ちになっていると時間がもう経っていた。そして自己紹介が始まった。