0話 別れ
如月翔の転生前の話です。
「ねえねえ!なんか食べたいものある?」
「そうだな、佳奈の作るものなら何でもいいかな」
「いっっつもそればっかり!風邪ひいてる時くらい我儘いいなよ!」
「ほんとに佳奈の作るものなら何でもいいんだよ、我儘言ったぞ?」
「わかりました、じゃあ風邪を引いた健自くんにはお粥を作って差し上げましょう。材料買ってくるね」
そう言って笑顔で手を振りながら彼女___神崎佳奈は部屋を出て行った。
彼女は俺___神崎健自の愛する人だ。彼女は俺の幼馴染であり、高校生の時に告白して付き合って今に至る。彼女はとても頭が良くてその上、大企業の社長令嬢であり告白してOKしてもらった時は死ぬほど喜んだ。正直な話、釣り合ってないと思ってた。でもそんなことは俺の杞憂だった。それから勉強も運動も頑張って、彼女の親に許しをいただいた。彼女の両親も最初からOKだったらしい。
そんなことを思い出して懐かしみながら再び眠りについた。
「……ん?電話か?」
アラームな音で目が覚め、スマホの方を確認する。電話の相手は彼女の両親だった。
「はい、健自です。どうかしましたか?」
「おい健自くん!今どこにいるんだい!?」
「熱があったので今先まで寝て、今は家ですけど…」
「落ち着いて聞いてくれ…、加奈が…佳奈が事故にあった」
「は?……え?」
「はあ、はあ………。夢…か…」
悪夢を見た、あの日からずっとだ。これが夢の中の話ならどれほど良かったことだろう。
佳奈は2年前の今日、事故で亡くなった。居眠り運転の車から子供を守って亡くなったと教えられた。優しい彼女らしい行動だった。
「ごはん…はないか。コンビニ行こう」
昨日と今日は会社は休みだったので朝ごはんを調達しに出かける。いつもは弁当の余りを朝食べているが今日はないので買いに行くしかない。
軽めの服装に着替えて、近所のコンビニに向かう。少し遠いが、いい運動だと思おう。
そうしてコンビニに着き、梅おにぎりを二つ買って店を出る。
そうして帰り道の途中の公園を通りかかった。
すると目の前から子供が走って道を渡ろうとしていた。
「(まずい、あの位置から出られると車からは見えないのか!)」
石塀があって俺の自宅からコンビニ方面に渡る時は車から見えない、なので横から来た車が気づかずによく事故になりかけていた。
それを見た俺は子供と車の間に入っていた。子供を右手で奥に押して、その上で自分の体を車と子供の間に差し込んだ。
ドンッと身体から鈍い音がなり地面に仰向けで倒れた。この時初めて死ぬと思った。
でも死にたくないとは思わなかった。身寄りもないに等しいし、大事な人にも先に逝かれた。未練も何もないのだから。
そして俺は意識を手放した。俺は彼女の命日に彼女と同じ方法で死んだのだった。