入学式
世界の人口七十億人中、三十億人が超能力者になった。 超能力者の為の学校。超能力科学校。
そんな学校が工業や農業と一緒にされる程浸透している。
そんな超能力科と普通科が混じっている学校――西陣学校の入学式。
そんな大事な日に寝癖を直さずに来た『馬鹿』としてみんなに見られてるんだろうなぁ、と思いながら橘弥一 (たちばなやいち) は寝癖を触りながら、校歌を聞く。
校歌が終わり、長椅子に座り、寝てしまった。
「新入生代表の神屋雪 (かみやゆき) です」
という聞き慣れた声で弥一は目を覚ました。
(やべえ、寝ちまった。入学式にも関わらず!)
入学式の厳かな雰囲気を汚してしまった事に少しばかり、罪悪感を感じた。
雪は凛々しかった。流石新入生代表。
隣に座っている茶髪に栗色の目をした顔立ちは割と整っている男子生徒が雪を見ながら、呟いている。
「はあ、惜しい。実に惜しい」
セミロングの髪は絹のように綺麗だし、瞳は大きく柔らかい雰囲気を与える。
「はあ、胸がもう少しあれば……ッ! なぁ、お前もそう思うだろ?」
と男子生徒が弥一に話を振ってきた。
弥一は結構真剣にアイツってブラジャーしてんのかな? などと考えてた所為で反応が遅れた。
「あ~。そうだな。もうちょいあればなぁ……」
顔のおかげで女の子と判別されている雪を見ていると流石に可哀想になる。
女装癖がある男の子と言われた事もある。
「おお、意外にこんな下ネタを初対面の人に繰り出されてその反応とは、お主もなかなかのエロ小僧ぐ!?」
初対面の人を殴ったのはこれが最初で最後だろう。
「ふざけんな馬鹿野郎。俺はただ単に可哀想だな、と思って言っただけだ」
「うんうん。確かに不憫だよなあ。笠谷アイによると六十二、五十五、七十七だな。うんホント不憫だ」
鼻をぐずらせながら言い切った笠谷。
どんな最低な特技だ。
「だけど甘いぜ笠谷 (かさたに) !」
弥一がそう言うと笠谷は大袈裟に、
「何!?」
と驚いて見せた。
弥一は暴露する。
雪のスリーサイズを。
「六十、五十七、七十七だ! お前が思っている以上に不憫なんだよアイツは! バストもウエストも!」
入学式の時間が凍りついた。
涙目で顔を赤らめながら身体中が怒りでわなわな、と震え出している雪。
そこでようやく二人は何かおかしいかな? と、入学式の雰囲気を感じ取り青ざめながら周りを見渡す。
ギラリ、と射殺すような目つきで睨んでくる一部の女子生徒とほぼ全員の先生。
メモ帳を取り出している男子生徒に、雪の身体を舐め回すように見る男子生徒と筋骨隆々とした体育の先生 (確定) 。
そして、怒り狂っている保護者の方。
面白がってビデオカメラを回している保護者の方。
「あとで、大きくする方法を授けなければ……」
と、白髭を蓄えた爺さん。つーか何故爺さんがそんな方法を知っている。
「(あ、鼻血出して幸せそうに倒れている生徒発見した。俺らの末路だなあれは。うふふふふ)」
「(あ、顔を真っ赤にしてる純粋女子発見したよぉ。可愛いなぁ、うふふふふ)」
現実逃避実施中の二人の周りに白い粉が舞い始める。
白い粉を見て弥一が覚醒する。
「やべっ!」
言った瞬間、氷が二人を凍り漬けにした。
「死になさい」
弥一は凍り漬けにされる瞬間、そう、言ったのを聞いた気がした。