今年の遠足は焼肉入り弁当を絶対汁漏れさせない!
今日は栗沢小学校毎年恒例の遠足の日、オレにとっては、去年の失敗にリベンジする日でもある。
「どうしたの、光男くん。えらく慎重に歩いているけど」
「あっ、先生。気にしないで」
背負っているバッグには、オレの大好きな焼肉が入った弁当がある。去年、オレは行く途中ではしゃぎまくったせいで、弁当を汁漏れさせる大失敗をおかしたのだ。
今年は絶対に汁漏れさせねえ。あせらず、ゆっくりゆっくりと……。
「よお光男! なんでそんなそろそろ歩いてんの?」
くっ、厄介なやつに見つかっちまった!
こいつは陽介、低学年からの友達だ。去年からクラス分けで別々になっているけど、それでもオレの顔を見ると常に絡んできやがる。
「もしかして、ハラでも壊したか?」
「ちげーよ。弁当を……守ってんだ」
「弁当? なんかいいもん入ってんの?」
「……まあな」
「よーし、じゃあ親友である俺っちが協力してやるよ」
「ええ!?」
「はいみなさーん、押さないでくださーい」
あれから陽介は、ボディガードのようにくっついて歩いている。ったく、こいつが絡むとどうもオオゲサになる!
「あれ、陽介くん何してるの?」
「あっ先生。光男の弁当を……」
「バカ! 言うな――うわっ!」
陽介に気を取られたせいで、道の溝へ足を踏み外してしまった。
「あぶねえ!」
ギリギリの所で陽介が助けてくれた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ」
ようやく目的地に到着できたが、オレはさっき転びかけた時に汁漏れしてないか不安で仕方なかった。
昼休憩の時間になり、おそるおそるバッグを開ける。
おや……?
弁当箱が新しくなってる、全然汁漏れしてない! お母さんが弁当箱変えてくれたんだ!
幸福に包まれながら弁当を食べてると、バナナを手に持った陽介がやってきた。
「おう光男、弁当無事だったか」
「ああ……ってか陽介、もう弁当食べ終わったの、速くね?」
「これ? これは昼メシだよ」
「はあ? そのバナナ、おやつじゃないのかよ」
「俺の母ちゃん、弁当作れないからさ」
陽介はなんでもないように、オレの横に座ってバナナを食べ始めた。
「なあ……陽介」
「ん?」
「これやるよ」
「え? いいのか」
「転びそうになった時、助けてもらったし」
オレは肉を何個か、陽介の持つ食べかけのバナナに乗せる。陽介は上手いこと肉だけを口の中に入れた。
「うめー! こんな肉食べたことねーよ!」
「そ、そうか」
「やっぱ持つべきものは、親友だな!」
口の中に残っているタレが、なぜだか酸っぱくなった。
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