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特攻艦神風

作者: 仲居雅人
掲載日:2026/01/21

 戦艦神風(かみかぜ)には他の戦艦から感じられる覇気の様なものが一切なかった。

 無理もない。神風は特攻命令を背負っているのだ。




 今回の大戦において、敵国である中華人民共和国は猛威を奮っていた。そこで我が国と協力関係にあるアメリカ合衆国は中国への強襲作戦を立案。同盟国に攻撃目標が告げられ、日本には上海への攻撃命令が下された。

 しかし日本には中国の防衛を突破できる程の武力はない。そこで建造されたのが戦艦神風である。


 神風は特攻を目的として一隻だけ建造された。乗員も最低限の20人だけで、逃亡阻止のためにAIによる操縦で上海に向かっている。乗せられた人間の役割といえば、特攻を探られないためのカモフラージュと銃座での迎撃だけだ。その時が来るまでは死んだ目をして過ごさなければならない。


 乗員は各々、死に向かうまでの絶望を紛らわせようとアルコール度数の高い酒や違法薬物を密かに持ち込んだ。しかし東京湾から上海までは距離があった。到着までまだ少しあるという所で酔いは醒め、薬物に手を出した者は手に入らない薬を求めて徘徊を始めるようになっていた。


 ある時、個室から何かが弾けるような音がした。現場には自身の脳天をピストルで撃ち抜き倒れている男がいた。とうとう、神風から初の離脱者が出てしまった。






 …初ではなかった。最も正気に近い男が艦内に残っている人間を数えると、自分を含めて14人しかいなかった。艦内を隈なく捜索すると5人分の遺書が見つかった。どうやら海へ身投げしたらしい。

 乗員の体内には神風から一定距離を離れた際に起動する爆弾が埋め込まれている。5人の身体は今頃爆散しているだろう。




 しばらくすると、我が国の誰もが歌えて当然である国歌が流れ始めた。そして曲が終わると、艦内全体に録音してあった音声が再生された。


「間もなく本艦は上海へ突撃を行う。諸君らの活躍により、本国で祈る家族、友人、そして未来を創る若者達が救われる。この作戦の成功により歴史に諸君らは名を刻む英雄となるだろう。健闘を祈る」


 終わりが近付いていると悟りつつ、抵抗をせずにはいられないのだろう。残っていた乗員達は銃座に移り、神風を守る用意を始めた。

 そして神風はと言うと、残る燃料を使い切るつもりで出力を全開。上海に向かって全速力で走り出した。


「死ねええええ!」

「お前らのせいだああああ!」

「みんな死んじまええええ!」


 最期に考えるのは愛すべき者達の事ではなく、憎き者達への恨み節だった。


「ああああ!」

「バンザァァァァイ!」

「嫌だぁぁぁぁ!」


 迎撃の弾幕の中、正気を保っていられる者はいなかった。


 そして上海へ加速して間もなく、戦艦神風は上海から飛び立った戦闘機に沈められた。まるで水平線に日が沈んでいくように、神風は海へと姿を消した。




 間もなく、作戦が失敗したという連絡がAIから本国へ通達。上海への攻撃は他国同様、部隊を率いて行う事となった。


 失敗に終わった以上、神風の存在が未来へ語り継がれる事はない。しかし成功していたところで、守るべき価値のなかった未来で脚色を盛られ、戦時中の悲劇としてではなく国を守った英雄達の美談として語られていただろう。

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