女の子一日目→放課後
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
再び昇降口を出る頃には、兎月さん、狼山、二人の仲はかなり改善されているようだった。
黒幕については今すぐどうこうするつもりはない。
どちらも様子見段階といった印象だ。
「あ、うぃんさん!さすがですね、ご無事に解決されたようで」
「当然だ、アタシだからな!」
「バカっぽいところも可愛いです」
「あぁッ!?なんだぁ慎吾ッ!」
兎月さんたちが笑う。
「ところで、こちらのお二人にはもう伝えたのですか?」
「あぁ、いや…まだだ…」
自然と顔がゆがむ。
…これに関しては、いつも慣れない。
アタシは後ろの二人に振り返る。
「えっとな…、
また、何かあったら言えよ」
「え、えぇ…よろしいのですか?」
隣りにいる狼山も一緒にアタシを見ている。
「あぁ、ただし…、
それ以外でアタシに話しかけるな」
「「え?」」
二人は一様に驚いた表情を浮かべている。
「そういうことですから、ここから先は別行動になります」
慎吾が作り笑いで言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
「そうです、皇さんは私たちの恩人なのに!」
「これはな、アタシのルールなんだ。アタシの視界で困っているヤツは何が何でも助ける。だが、助け終わったらそれまで。あとはソイツの自立を促すっていうか」
二人は納得がいっていない様子だ。異議ありといった様子で狼山が前に出た。
「皇…さんと、一緒でも、自立出来るよ!ウチらは頼り切ったりしねーから!」
「そういうことじゃなくてだな…アタシだって、二人と仲良くしたいさ。でも、それがアタシの『弱み』になる」
「うぃんさんは様々な方から狙われているんですよ。それこそ、僕たちが対応している武闘派の不良グループや、理事長とのつながりから身代金目的の誘拐犯であったり。つまり、あなたたちがうぃんさんに近付けば近付くほど、『弱み』が増えるんです。迷惑なんですよ」
迷惑という言葉に二人は愕然とした表情を浮かべた。
「そういうことだから…」
アタシは二人に背を向けた。
「もし!…もし、うぃんさんが拐われたらどうするんですか?」
振り向くと、兎月さんが険しい表情でこちらを見ていた。
「それは…」
しまった、今のアタシは『うぃん』だ。『勝利』じゃない。とてもじゃないが、自分の身を自分で守り切れるとは言い難い。
「私たちが『目になります』!」
「あぁ!そうだよ!もし皇が拉致られるようなことがあったら、ウチらが通報する!いち早く連絡するから!」
「…えーと、うぃんさん?」
慎吾が困ったようにこちらを見る。
慎吾もアタシと同じ不安を感じたんだろう。
状況が変わってしまった。
確かに、現状では連絡手段が多いに越したことはないかもしれない。
「うぅーん…」
これは参った、まさかアタシが迷惑をかける側になってしまっていたとは。
そして、今悩んでいるということは、自分の中で『この子達に価値を見出している』ということだ。
「なぁ、慎吾…」
「なんですか?うぃんさん」
うわ、めちゃくちゃ笑顔だよコイツ…。
「もし、この申し出を受けると、双龍の負担が増えるかもしれないけど、…いいかな?」
「…そんな上目遣いでおねだりされては、断れませんね?」
「だっ!!誰が上目遣いだ!!身長差がだなぁ!!」
クスクス。アタシらの茶番劇に、二人が…笑って、いるぅ。
「た、たっつんに関しては、多分大丈夫だ。たっつんはアタシのお願いを無碍にしたりしない」
「そうですね。ということは、良かったですね、うぃんさん。新しいお友達が出来ましたよ」
二人の顔がパァッと明るくなる。
その姿を見ていると、なんだか…気恥ずかしくなってきた。
「と、友達になるからには、皇なんて他人行儀な呼び方はするなよ!」
「それでは、なんとお呼びしましょうか?」
「う…、ぅ…ぅぃんちゃん、って、呼んで欲しい…」
「ぷっ!ウチ命令されるかと思ったらお願いでおもろー!!」
「ぐっ!!だって友達じゃないか!!命令なんかしてたらおかしいだろー!?」
「わかりました、うぃんちゃんですね!」
「う、うん…」
あぁ恥ずかしい…なんなの、友達作りってこんな感じなんだ、うわぁ恥ずかしい、ただただ羞恥!
「それでは、私のことは美未とお呼びください!」
「ウチのことはあずきでよろー!」
「うぅ、美未ちゃんと、あずき…ね」
ヒィ、顔から火が出る…ただでさえ女子と接点がなかった人生だったのに、女の子初日でこんなことになるなんて。
でも、
「ニコニコ笑顔の二人を見てたら、なんか安心する…。
…。
ッハァ!?口から勝手に気持ちが漏れ出してるぅー!?」
三人に大笑いされ、アタシの学校生活初日は幕を閉じた。