女の子一日目→喧☆嘩
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。現在はあずきグループのいじめ被害に悩んでいる。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未をいじめている。一人称はウチ。
三階に着くと、狼山たち三人がアタシたちを見下ろしていた。
「何か用?ウチさっき謝ったしー?メンゴーって」
取り巻きの二人がゲラゲラ笑う。本当に耳障りだ。
暴力に訴えれば手っ取り早いが、それでは根本解決にならない。…なんて、散々喧嘩に明け暮れてどの口が言うんだって話だが。
暴力は、結局やってやられての繰り返し。早期解決が見えない、それではダメだ。
少なくとも兎月さんの問題に関しては、今解決しないといけない。
いじめられている側は、日々消耗している。
「もう一度聞くけど、なんで兎月さんのこと、いじめてんの?」
狼山の眉がピクリと一瞬跳ねた。視線は上へ。つまり、脳へのアプローチ。何か思い当たることがあるということ、かな。
「いじめられるのに理由なんて必要ー?なんかムカつくからじゃダメなのー?」
「ダメだね」
アタシは言い切った。
「理由がなくいじめるのは論外だけど、『理由があるのに隠す』のも、ダメじゃない?」
「ッ!?」
カマかけ成功。コイツは何かを隠してる。
ただ、それが何かまではわからない…さて、どう探ったものか。
「アンタらはどんなテンションか知らないけどさ、いじめられてる側のストレスって考えたことある?」
「し、知らないし!いじめられる側に問題があるんじゃないの!?」
ひたすら兎月さんに責任を擦りつけてるな。
「例えば、いじめで『自殺』に至ることって、珍しくないよね」
「ッ!!」
ーー狼山だけ、明らかな動揺。取り巻きはどうでも良さそうだ。
兎月さんが亡くなる事でショックを受ける。自分が主犯だから、その責任からか?本当にそれだけ?
さっきも思った通り、『狼山は何かを隠してる』。
…主犯?
「兎月さん、聞いてもいい?」
「は、はい…」
濡れたブラウスが体温を奪っているのか、兎月さんは胸の前で腕を組み身体を抱き締めている。
「兎月さんのことをいじめてるのって、狼山だけ、だよね?」
「そうです…」
「取り巻きに何かされたことは?」
「ありません」
なるほど。
「もしかしてだけどさ」
「兎月さんと狼山って、『最初は仲が良かった』んじゃない?」
「「!!」」
あぁ、このパターンか…。
胸糞悪くなる。
だから狼山は思い当たることがあったんだ。
「つまり、
『狼山は加害者であり、被害者』ってことで、
オッケー?」
「…」
狼山は返事をせずに、俯いて肩を震わせている。
「例えば、派手な格好の自分が、控えめな兎月さんと仲良くしている所をいじられるようになり、最初は照れ隠しだった兎月さんへの言葉が、だんだん鋭さを増していった。そして、次第に引っ込みがつかなくなってしまった」
「とかね?」と言いながらおどけて見せる。
「あーあ、だっる」
取り巻きの言葉で兎月さんと狼山の肩が跳ね上がる。
アタシは取り巻きの顔を見た。
「もーいーや、本当使えないんだから」
「ねー、もうコイツらまとめてやっちゃう?」
「それいーね!ボコボコにしちゃおうよ!シュッシュッ!」
ゲラゲラ、ゲラゲラ、飽きもせず。
アタシは狼山の横を通り抜けて、取り巻き…黒幕二人の前まで歩み出た。
「兎月さんと狼山には話し合ってもらうとして、お前らはどうしたもんかな」
「は?アンタに何が出来んの?」
「そうよ!バカじゃん?証拠がないじゃん!」
「やったの全部あずきだしー!?証拠!証拠!!」
証拠ね。
アタシはブレザーの内ポケットからスマホを取り出すと、現在も起動しているカメラの動画を指差した。
「はい、証拠。ついでにお前らの顔も撮ってあげるね?はい笑って笑ってー」
黒幕の二人は表情を引き攣らせている。
「これでてめーらも当事者だ、高みの見物決めてんじゃねーよ」
アタシの言葉に、どっと汗を流す二人。
「あと、お前らよくアタシをターゲットに出来たな」
「アタシは、皇 勝利のいとこにして、この学園の理事長を祖父にもつ、『皇 うぃん』だ。お前ら、退学の準備は出来てんだろうな?」
◆
黒幕の二人は涙を流しながら、即座に今までのことを謝罪してきた。
アタシには彼女らを処罰する権限はないので、ひとまず今日のところは帰ってもらうことにしたが、
この場に残ったのは、アタシと兎月さんと狼山の三人。
狼山は、ただ俯いていた。
意地悪のつもりはないが、このままでは兎月さんが風邪をひきかねないので、あえて話を促すことにした。
「こういう時、どうすればいいんだよ」
狼山の身体がビクッと震え、おずおずと兎月さんの顔を見る。
兎月さんは、困ったように笑っていた。
「…美未、ごめん、なさい」
「…うん」
「ごめんなさい、ごめんなさい!!あああああ!!!!」
「…大丈夫、大丈夫だからね」
狼山の頬に手を添え、兎月さんは優しい笑顔を見せていた。