女の子一日目→下校
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。現在はあずきグループのいじめ被害に悩んでいる。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未をいじめている。一人称はウチ。
「結局あれから狼山たち、絡んでこなかったね」
へへっと笑いかけると、兎月さんは嬉しそうに「うん」と返事をした。
中庭での啖呵が効いたのか、何事もなく今を迎えている。
教室で見た限りでは狼山たちも楽しそうに談笑していたので、意外とそこまで執着はなかったのかもしれない。
とりあえずは、兎月さんを救えたことを喜ぼう。
「ご機嫌ですね、うぃんさん」
「そう見えるだろ?兎月さんと一緒だからな。ということで…もちろん、わかってるよな?」
「ええ、もちろん。か弱い女性お二人のボディガードが必要ですね」
慎吾、全然わかってねえ。わかっててわかってねえ。シンプルにファ◯クオフ。
「(そうは言いますが、本当にあなたの立場は危険なのですよ。見た目の可憐さ、儚さはもちろんのこと、家柄まで良いのですから世の輩が放っておきません!)」
「(なんっでだよ!!アタシは性転換しただけで一気に不自由な世界になんのか!?っていうかそうは言いますがって、アタシなんも反論してなかったし!!心読んでんじゃねーッ!!)」
「(ふふ、僕は察しも良いんです)」
「(察しが良けりゃついてこねーけどなッ!)」
「(ですからそれは…)」
「あの…」
ーービクッ!
慎吾と二人で肩を跳ね上げる。
「な、なあに兎月さん?」
「お二人は本当に仲が良いんですね」
そう言うと兎月さんはクスクスと笑った。
さっきまで不安そうにしていた兎月さんを見ていただけに、今の自然体な彼女がとてもまぶしく見える。
「ま、まあね!コイツらとは長い付き合いだから…」
「そう、なんですか?でも、皇さんは交換学生で今日からこの学校に…?」
「!!ぷ、プライベートでも交流があるからッ!」
「ええそうです、僕たちは深い絆で結ばれております」
「黙れ!!」
上履きを脱ぐと、外履きのローファーを取り出し、下に放り投げる。
どこに地雷があるかわからんから、迂闊な雑談は出来ない。改めて現状の面倒臭さを理解した。
「いったッ!!」
反射的に足をあげると、急いでローファーを脱ぐ。
ーーやってくれるねぇ。
そこには、二、三個の画鋲が入っていた。
それを見た兎月さんが目に見えて怯え出してしまった。
慎吾は、目だけが笑っていない。
なるほどなるほど、これは『俺』が楽観的過ぎたかな。
それはそれ、これはこれ。
今アタシがやるべきことは、兎月さんを安心させること。最低限として、怯えさせないことだ。
「もう、下校だからさ!証拠もないし、誰がやったかわからないじゃん!?これに関しては、明日アタシが責任もって調査するからさ!」
「…う、うん…大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫!これくらい平気だって!」
誰がやったか、わからない?
そんなわけ、ねえよなぁ。
アタシたちは靴の中をよく確認して、外履きに履き替えた。
大丈夫。落ち着け。全然オッケー。
「今日のことはもう水に流して、明日いっぱい粘着してやるんだー!」
「なんですかそれ、ふふ…」
ーーバシャーン。
水に、流された。
物理的に。
兎月さんが。
兎月さんが俯いて、唇を噛み締めている。
目には被った水とは別に、次々涙が溢れてきていた。
「…もう、いやだ」
昇降口を出たところだった。
上を見上げると、あいつらがいた。
「メンゴー!!人がいると思わなかったしー!!」
ゲラゲラと下品な笑い声が響く。
「…これはお仕置き案件ですね」
すぐにでも駆け出しそうな慎吾の腕を掴む。
「待って、慎吾。この件は、アタシと兎月さんでケリをつける」
アタシは鞄からタオルを取り出して兎月さんの髪を拭きながら、昇降口の方へ背中を押した。抵抗される。きっとアイツらの所へ行きたくないんだ。
「大丈夫だよ、兎月さん。心配しないで。もう、終わりにしよう。アタシがアイツらに『ワカラセ』てやるから」
「だから、もう少しだけ付き合って」
背中に入ってた力が緩み、ゆっくり、兎月さんが歩き出す。
待ってろよ、お前ら。