体育祭だってよ8
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
鳥谷 楓子:うぃんと同じクラスで、あずきと美未をいじめていた陸上部員。一人称は楓子。
「もうね!本当バカみたいに速いんですよッ!追いつきたいのに全ッ然追いつけなくて、いっつもいっつも差が開いちゃうッ!!」
楓子が両手を胸の前でグーにして、興奮を隠さず語り続ける。
火がつくのは一瞬だった。アタシが「ところで、あずきってバカっ速くない?」と言っただけで、小学1年生の頃から遡って自分の知り得る全てのメモリーを共有してきた。
「聞いてますッ!?こっちは必死なんですよ!?」
「き、聞いてる引いてる」
アタシの思わずこぼれた本音にも気付かず、彼女は身を乗り出して熱弁している。
マジ帰りたい。
◆
「つまりさ、楓子はあずきが根っから嫌いってわけじゃないんだよね」
「…まぁ、そう言えなくもないです」
さっきまでの熱弁はどこへやら。ここに関してはまだ歯切れが悪い。
「そこまで夢中で語れるほど追いかけてたのに、目標が腑抜けてたらアタシだってゲンナリするよ」
「そうですよね!?」
我が意を得たりといった様子で楓子がこちらを見る。
「じゃあさ、今度の100m走、ひいてはリレーに期待しようよ。またあずきが、楓子の理想の姿を見せてくれたらさ、考え改めるっていうのはどうかな」
「…そう、ですね」
楓子は複雑な表情ながら、「まだわかりませんけど」と呟いた。
「多分ね、今は振り上げた拳の落とし所がわかってないんだと思うんだ。また昔みたいな感動を味わえれば、きっと仲良くなれるよ」
「…そうだといいですね」
「そう思おう!幸いあずきだってやる気満々だしさ、何事も無ければいい結果が待ってるって!」
そう、何事も無ければ、きっと大丈夫。
きっとね。
◆
「今日はありがとうございました。部活終わりで疲れ切ってましたけど、まぁいい気分転換にはなりました」
「キミは本当に素直なのか素直じゃないのか」
アタシは苦笑して見せる。
「何はともあれ、体育祭を期待してます」
「アタシも。ところで、もう一人の子のケアって、しなくていいのかな」
「雅の事ですか?あの子は楓子に付き合ってくれてるだけなんで、大丈夫だと思いますよ」
「そっか、ならいいんだけど」
「はい、それじゃ楓子はここら辺で失礼します」
背を向けようとする楓子に、
「楓子も、記録伸びるといいね」
「え…。…皇さんは、あずき側の応援なんじゃないんですか?」
楓子がジトっとした目でこちらを見る。
アタシは思った事をそのまま、
「仲良くなった相手が努力してるならさ、応援したくなるじゃん。他人は知らないけど、アタシはそうなんだ」
楓子は口を尖らせて、
「本当女神だこと。まぁ、受け取っておきます」
と言い、今度こそ背を向けて歩き出した。




