体育祭だってよ5
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
鳥谷 楓子:うぃんと同じクラスで、あずきと美未をいじめていた陸上部員。一人称は楓子。
鶴屋 雅:うぃんと同じクラスで、あずきと美未をいじめていた陸上部員。一人称は雅。
「ところで…うぃんちゃん、抽選まで行ったのに、ここで100m走の代表を勝手に決めて大丈夫なんですか…?」
美未ちゃんが当然の疑問を口にする。
「…アタシはね、勝ちたいんだ。なら、勝てる可能性が高い方に走って欲しいッ!」
胸を張って開き直るアタシに、美未ちゃんとあずきが『これだよ』といった様子で苦笑する。
と、アタシ達の談笑をよそに、鳥谷が立ち上がってこちらに向き直った。
「…ふざけんな」
鳥谷があずきを睨む。
「ふざけんなよ、あずきッ!!」
鳥谷があずきに掴み掛かろうとする勢いであったため、アタシが間に割って入る。
だが、お構いなしと言わんばかりにあずきへ向かう勢いを止めようとしない。
相方の鶴屋も何をそこまで激昂しているのか理解が出来ない様子だった。
「…ウチが何かした?『ただ走っただけ』だけど」
「ッ!!」
あずきの言葉に、鳥谷の勢いが増す。正直アタシ一人でいつまでも抑えていられない状況だ。
「『ただ走っただけ』!?ふざけんなッ!!楓子の事舐めてんのかッ!!いつもそうやって!!当たり前のように楓子の事を置き去りにしてッ!!
『ちゃんと走れるんじゃねえかッ』!!」
鳥谷が怒りをむき出しにして叫ぶ。
驚いた表情のあずき。
周囲はポカンとしながら、
ーーガッガッガッ!!
我慢が出来ないといった様子で何度も地面を踏み鳴らす鳥谷。
アタシたちはその様子を、ただ呆然と見つめていた。
◆
「あずきと鳥谷は知り合いだったのか?」
グラウンドの隅、アタシとあずき、美未ちゃん、鳥谷の四人はベンチに腰掛けていた。
アタシの質問に、鳥谷は口だけを動かす。
「…あずきは、楓子の事なんて知らない。楓子が一方的に知ってただけ…小学生の頃に」
鳥谷は地面を見つめながらポツポツと話し出した。
「楓子は、あずきと同じクラスになった事はなくて、でも絶対に一年に一度、顔を合わせてた。
それが、運動会のリレーだった」
あずきが驚いたように鳥谷を見る。
「あずきはいつも速かった。先頭でバトンをもらった時はもちろん、ビリでバトンを受け取っても、いつもトップになった。楓子が競り合えた事なんて一度も無かった。だからあずきは運動会では圧倒的なヒロインだったし、楓子も憧れてた」
皆が黙って続きを促す。
「中学ではあずきとは別の学校になったけど、楓子は陸上部に入った。いつか記録会で会えるんじゃないかって、あずきが走る事を辞めないと信じて疑わなかった」
「でも、記録会では一度も出会えなかった」
「なんで?って気持ちでいっぱいだった。あんなに速く走れるあずきが、なんで陸上の世界にいないの?って思った。いつしか楓子は、あずきが違うスポーツで活躍してるんだと思うようになった。それならそれで、納得できた。それほどすごい走りだったから」
鳥谷が、淡々と喋り続ける。
「そしてこの学園に入って、
…あずきを見つけた」
今度はあずきが気まずそうに顔を伏せる。
「楓子は興奮と嬉しさの中で、どうしたら嫌われないで声をかけられるだろうって、それだけでいっぱいだった。だって、楓子が一方的に認知してるだけだったから。だから、…体育の授業で、あずきのカッコイイ走りを見て、そこで声をかけようと決めた」
あずきもまた、地面を見たまま動かない。
「そして待ちに待った体育の授業。ようやく、また声をかけられると思った時、楓子の前には、
…だらしなく走るあずきがいた」
「なんて話しかければいい?楓子はあなたの走りに憧れていました?あなたに憧れて、短距離を続けてきました?その時のあずきを見て、そんなキラキラしたセリフが出てくる?…だから、楓子は精一杯の勇気を出して話しかけたの」
『大丈夫ですか?怪我とかしてるんですか?』
『え?いやぁ、走るのって好きじゃなくてさぁ』
「全てが、壊れた気がした」




