体育祭だってよ4
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
鳥谷 楓子:うぃんと同じクラスで、あずきと美未をいじめていた陸上部員。一人称は楓子。
鶴屋 雅:うぃんと同じクラスで、あずきと美未をいじめていた陸上部員。一人称は雅。
「ちょっと待ちなよ!!」
放課後、昇降口を出ようとしたところ、アタシ達は背後から声をかけられた。
振り返ると、身長凸凹の女生徒、二人組が眉をしかめながらこちらを見ている。
チラリと隣を見ると、あずき、美未ちゃんも同様に険しい表情を浮かべている。
アタシは一歩前に踏み出ると、ひらりと手のひらを返し、
「二人とも、何か用?」
アタシは笑顔で牽制した。
声を発した方、鳥谷 楓子がバツの悪そうな顔で少し視線を逸らす。
「す、皇さんは少し黙っていてもらえない?用事があるのは、…あずきにだから!」
アタシの事は苦手だろうに、そこまで言うからには事情があるのだろう。
アタシは一旦様子を見守る事にした。もちろん、相手が変な動きをしたら容赦しない。
指名されたあずきがアタシの横に並ぶ。
「…ウチになんか用?」
あずきから緊張が伝わってくる。1年近い間いじめられていた記憶は、そう簡単に消えるものではないだろう。出来れば不要なストレスを感じて欲しくはないのだけれど。
鳥谷はあずきを指差しながら、
「体育祭の100m走は、陸上部である楓子と雅が出るつもりだったの!なんで大した記録も持ってないアンタが出るのよ!」
と叫んだ。
体育祭の競技は基本的に立候補。もちろん推薦もあるが、競技人数を上回った場合は抽選となる。
っていうか鳥谷の一人称、楓子…名前呼びややこし過ぎる。
「そんな事を今言ってどうするの?あの時抽選まで終わってたのに」
アタシの言葉に鳥谷と鶴屋 雅が口を一文字に結ぶ。
ふと右腕の裾が引っ張られる。美未ちゃんだ。
「…あちらのお二人はあの時間、ずっと談笑されていたようでしたから…抽選になった事すら知らなかったんだと思います」
「…なるほどねぇ」
学級委員とはいえ、いじめていた相手に美未ちゃんが伝えるのも酷だろうし、今の今まで知らなかった、という事か。
「なんだ、そんな事…。またつまらない事させられんのかと思って、焦ったし」
あずきは、ふはッと笑った。
鳥谷と鶴屋が戸惑いの表情を浮かべる。
あずきは、アタシをからかう時のような挑発的な笑みで、鳥谷と鶴屋を見た。
「グラウンドに出な、わからせてやるし」
◆
「距離は本番と一緒、100mを走ってもらうよ。あずき、鳥谷、鶴屋の上位二名が二年A組の100m走女子代表となってもらう」
当事者の三人がこちらを見て頷く。
ゴール地点には美未ちゃんに立ってもらっている。
アタシが手を挙げると、美未ちゃんも応じてくれる。
「それでは、位置について…」
三人がクラウチングの姿勢を取る。
「よーい…」
足をやや伸ばし、姿勢を高くする。
「ドンッ!!」
ーーザッ!!
三人のつま先が地面を蹴る。
陸上部の二人は前傾姿勢の時間が長く、グンッと加速する。
二人にやや遅れながら、あずきが追う。
40mあたりの位置で、三人の姿勢は完全に起き上がっており、胸を張っている。
ここからは最高速度の叩き合い。短距離の力比べ。
スタートダッシュの遅れが致命的かと思ったあずきだったが、
ここからが凄かった。
なんという歩幅。
あずきの身長は160cmほどだったと思うが、一足ごとに身体を全力で押し出し、まるで飛び跳ねるように進む姿は、もっと高身長であるかのように錯覚させる。
あずきはスタートダッシュの遅れをものともせず、陸上部の二人を置き去り、文字通り駆け抜けるように先頭でゴールした。
アタシは急いでゴールに向かうと、陸上部の二人は膝に手をつき、肩で呼吸をしながら、信じられないといった様子であずきを見上げている。
あずきは二人を見下ろしながら、
「これで、ウチが代表だし。残りの1枠は勝手にしろし。あと…」
あずきが膝を曲げて二人の視線に合わせる。
「ウチは体育祭に向けて調子上げてくから、足引っ張んなし」
ーービクッ。
二人が肩を震わせる。
二人は部活を通して普段からコンディション調整をしているが、あずきは調整らしい調整をしていない。
つまり、
あずきは、まだ速くなると宣言したのだった。




