デスティニーパークへ行こう!5
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
「今回は待ち時間で心の準備がしっかり出来たからね、アタシも楽しんでみせる!」
「…うぃんさん、強いですね…僕は今から不安で仕方ないですよ」
慎吾が弱音を口にする。
冷静に考えてみればコイツはさっき気絶してるわけだから、不安になっても仕方がない。
アタシは慎吾の背中をポンポンと叩く。
「大丈夫だって、次はアタシが隣に座ろうか?」
「うぃんさん…いいんですか?」
慎吾がキラキラした目でこちらを見る。
あずきも美未ちゃんも、仕方がないと思ったのだろう。
特に口を挟んでくるようなことはなかった。
アタシは大きく頷くと、「一緒に乗ろう!」と笑って見せた。
「それはそれとしてさ…アタシ、気付いたんだけど」
三人が私に注目する。
「このデスティニーザライドって…そこそこ速くない?席も一列に二人乗りだし、なんか…『ザ・ジェットコースター』!みたいな…」
あずきと美未ちゃんが顔を見合わせて、ニヤリと笑う。
え、何、怖いんですけど。
「さすがはスピードのコースターだし?」
「こういうのは実際に体験した方が楽しいですから」
美未ちゃんが得意のニッコリ笑顔を見せてくれるが、今は不安でしかない。
アタシは慎吾の手を握る。
「慎吾、初体験同士、楽しもうね!」
「は…初体験、ですか!」
「…何そこ拾ってんの、アンタ今日どうしたの」
「いえ、忘れてください」
完全に浮かれている慎吾から手を離すと、経験値の足りない不安なパートナーにため息をついた。
◆
「デスティニーザライドへようこそ!お客様は四名様ですか?」
「そうだしー!」
「それでは二名ずつに分かれまして、それぞれ足元三番、四番の列にお並びくださーい!」
キャストの案内を受けてアタシたちは三、四番の前まで来た。
「先頭じゃないなら、ウチはどっちでもいいけどー?」
「じゃあ慎吾の負担を少しでも減らしたいから、アタシらが四番でいいかな?」
「もちろんです、それでは私とあずきちゃんが三番ですね」
美未ちゃんとあずきが三番の列に、遅れてアタシと慎吾が四番の列に並んだ。
程なくしてアタシらの前にゴンドラが帰還する。
安全バーが上がり、アタシたちとは反対側の降り場に乗客たちが次々進んでいく。
「それでは足元にお気をつけて、奥から詰めてお乗りくださーい!」
キャストのアナウンスに従い、アタシ、慎吾の順に乗り込む。
「この安全バーも肩からかけるタイプなんですね?」
「言われてみれば…一回転とかしないと思うんだけど、なんで?」
アタシたちはお互いに、「なんで?」と言いながら準備をする。
『皆様、安全バーの準備はよろしいでしょうかー?この後キャストが確認にうかがいまーす!』
スピーカーのアナウンスとほぼ同時にキャストが現れ、アタシと慎吾の安全バーを確認していく。
『それでは安全の確認が取れましたので、デスティニーパーク一周の旅へー、しゅっぱーつ!!』
ーープルルルルルル!!
アナウンスの後、発車を告げる音が鳴る。
ガタンッ!と音が響き、ゴンドラが発進する。
「始まったね、行列で見てた分には特にヤバそうな雰囲気もなかったし、大丈夫だよ」
「そ…そうですよね」
ぎこちない表情で応える慎吾。
アタシは自分の安全バーをギュッと握っていた慎吾の手に触れる。
そのまま無理矢理手を剥がすと、恋人繋ぎでしっかりと包み込む。
「大丈夫、さっきのヤツよりやばいのって、そうそう無いでしょ」
イタズラっぽく笑って見せる。
事実、フライングチェーンソーは最凶クラスのジェットコースターだと思う。
それに比べてコイツはどうだろう?ループ一つないんだぜ?
慎吾も恋人繋ぎが効いたのか、少し表情が和らぐ。
「ねぇ見て!さっきのフライングチェーンソーがある!」
「ほ、本当ですね」
なるほど、パークを一周するとは伊達じゃない。
まだ知ってるアトラクションは全然ないが、色々知ってくるとこの景色をより楽しめるのだろう。
ゴンドラは徐々に加速していき、左右に揺れ蛇行する。
だが、進行方向を見る限り、ループのような激しいコースは見当たらないし、さっきのように吊られているわけでもない。
三大コースターとはいえこの程度か。
結局時間の都合で最初に乗ったのが一番激しかったってことかな?
情報を知らないながらも快適な速度と風景を楽しんでいると、デスティーパークの入場ゲート上方を越え、パーク内でも未知の領域に突入する。
こっちには何があるんだろう、そんなことを考えていると、遠くの進路上に長いトンネルが見えた。
「あれ、なんだろう」
「なんでしょう…トンネルだとせっかくの景色が見えなくなりませんか?」
二人で「なんだろう」と言い合っていると、くだんのトンネルに差し掛かり、
ゴンドラの速度が落ちて、止まった。
「え?」
『さぁ、準備はいいですか!?』
トンネルに響くアナウンス。
『シートにもたれかかって、耐えてくださいね!行きますよー!』
『「3!」』
『「2!」』
『「1!」』
『「GOッ!!!!!!」』
ーーギャギャギャギャギャッ!!!
トンネル内に響き渡る謎の音と共にゴンドラが暴れ出した。
後で知る事になるのだが、アタシたちは一瞬の間に時速150kmへと急加速し、死んでしまうのではないかと思うほどの急ブレーキがかかり、トンネルを出る頃には先ほどまでの通常速度で、まるで何事もなかったかのように外周を走り出していたとのことだった。
パッと見、ただの遊覧コースターに見えたが、このトンネルの中だけは、ゴリッゴリのモンスターマシンだった。
もちろん、慎吾は気絶していた。




