デスティニーパークへ行こう!4
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
「慎吾…慎吾終わったよ、早く移動しないと…」
慎吾の安全バーをあげて、慎吾の身体を支える。
「あれ…うぃんさん?…天国?」
「うるさい、早く移動すんのよ」
アタシはペチンと慎吾の頭をはたくと、慎吾はびっくりしたように目を見開く。
「あれ!?終わったんですか!?なんだ、ジェットコースター…大した事ないんですね」
「うるさい、お前の痴態を堪能してる場合じゃないのよ!早く降りないと次のお客さんが待ってるでしょ!?」
「うわ、失礼しました…すぐに移動します」
ようやく事態を把握した慎吾が慌てて座席から降りる。
ひと足先に出口へ通じる対岸に降り立っていた美未ちゃん、あずきが笑いながらこちらを見ていた。
「…あずき、マジでやばかった、何がやばいって」
「ほら、次行くよ、うぃん!!」
ーーガシッ。
先ほど同様に、あずきがアタシの腕を掴んで走り出す。
「またこれなのぉ!?」
「感想は次のコースターに着いてから、百歩譲って走りながらだしッ!」
今後は美未ちゃんも遅れずについてくる。
そして取り残される慎吾。
「慎吾おおおおマジで置いてかれるよおおおッ!!!」
ハッとした様子の慎吾が遅れて走り出す。
それにしてもこの二人、アタシがいれば問題無いとでも言わんばかりに慎吾をスルーしてやがる。
元はと言えばアタシが無理を言って同伴させてもらったわけだし。
今日はアタシが責任をもって、慎吾に声掛けしていくしかない。
頑張れ慎吾、アタシも頑張る。
◆
「パーク最奥のコースター!デスティニーザライドに到着だしーッ!」
「…はぁ、はぁ、あずき…足、速くない?体育の時より…」
「あー、ウチ体育興味ねーし。こういう日のために、普段から体力蓄積してんだしー!」
あずきがケラケラ笑う。
それを見た美未ちゃんが補足するように、
「あずきちゃんが去年教えてくれたんですけど、昔から体育祭でリレーの選手に選ばれるのが嫌だったから、普段から手を抜いてるって言ってました」
「だって、炎天下で人より多く競技に出るなんて馬鹿らしいしー」
理由が残念過ぎる。
「それだけで体育の成績まで捨ててるの?」
「んー、ウチはそこまで成績成績じゃないんよね。うぃんがウチのリレー姿が見たいなら走ってもいいしー?」
「見たい。絶対、格好良いよ」
「え」
あずきの頬が紅潮する。
アタシの頬も紅潮する。
何、今の、口からサラッと出てきたんですけど。
視界の隅に、ぷっくり膨れた美未ちゃんが見える。
「な、何言ってんだし!ほら、早く並ぶし!」
あずきはクルッとアトラクションの列に向かって進んでいく。
…むぅ、断られると、それはそれで、押し通したくなる。
そんな気持ちを抱きながら、アタシたち三人はあずきを追って行列に並ぶのだった。
◆
「待ち時間は30分。コースターの待ち時間だと思えば全然余裕だしー」
「そうだね、いつもだと70分待ちだってざらにあるもんね」
あずきと美未ちゃんが経験者の観点で話す。
「やっぱりプランニングが最高だったし。初回コースターで先頭席からの、最奥コースターへ移動で三十分待ち…ワンチャン後回しにされがちなここを攻めたのは大正解だったし」
「あずきと美未ちゃんのおかげで、メジャーどころをあっさり攻略出来るわけだね」
「それでも、最後のコースター、フリーリィだけは長時間の行列を覚悟しなければなりませんよ?」
美未ちゃんが念押しをしてくる。
アタシはうんうんと頷く。
「それはわかってるけど、二人がいればおしゃべりだって楽しいしさ」
あずきと美未ちゃんに向かって微笑みかける。
「いや、僕もいるんですけど」
「アンタいたの、もう召されてるのかと思ってた」
「酷いです…気絶明けですぐに走った僕を褒めてください…」
どうやら自身が気絶していた事については認めたようだった。
「…しかし、フライングチェーンソーやばかったね、アタシ久し振りに男だった時の感覚が蘇ってきたよ」
「私のパパも、高い所へ行くと股間に違和感があると言っていましたが…同じ事でしょうか?」
「多分ね…慎吾はわかる?この感覚」
「…まぁ、一応」
慎吾が複雑そうな顔でそっぽを向く。
「でも面白かった!最初こそ余裕がなかったけど、後半は背もたれに押し付けられる所まで楽しかったもん」
「ねー!内臓がフワッとなる感覚が多いんが特徴!アップダウンが激しいんだし!」
「それに比べると、次のデスティニーザライドはスピードです」
美未ちゃんが言った。
「スピード?」
「そうです、デスティニーザライドはパークの外周をとても速い速度で一周するんです」
「ウチはコースターの中で一番好きかも!速いの好きなんだしー!」
「へー、あずき速いの好きなんだ?」
「うんうん、好きだしー!」
「アタシも、速いあずき見たいなー?」
先ほどのリレーの話を蒸し返してみる。
あずきは「うっ」と言いながら、やや背後にのけぞる。
「アタシさ、うぃんになってから、ちゃんと学校行事に参加しようと思ってるんだ。だから、友達が一緒に頑張ってくれたら、アタシもっと楽しいと思うの」
「…そう、なんだし?」
「うん、そう。中間テストは美未ちゃんがすごく親身になって教えてくれた」
「え、僕は?」
「美未ちゃんがすごく親身になって教えてくれた。だから、六月の体育祭は、あずきも格好良いところ見せてよ」
あずきは頭をかきながら、「うーん、うーん」と悩んでみせたが、やがて口元に手を当てると、
「…うぃんのためなら、特別だし」
と、歩み寄る姿勢を見せてくれた!
「ありがとう!あずき大好き!」
アタシはあずきにぎゅーっと抱きつく。
「「それはダメですよッ!!!」」
美未ちゃんと慎吾がハモりながら叫んだ。
「任せろし」
「「「!?」」」
あずきがアタシに腕を回し、力を込める。
…今更ながら、自分が大胆なことをやってしまった事に気付くのだった。




