デスティニーパークへ行こう!2
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
「…うわぁ、これはすごい」
「開園と同時に入場しようとすると…こんな事になるんですか」
パークをあまり利用しないアタシと慎吾にとって、チケット売り場の混雑はあまりに非日常だった。
これでもあずきの進言で、開園三十分前に到着している。
あずきと美未ちゃんは、アタシたちに向かって軽く手を振ってきた。
「チケット売り場は全員で行く必要ねーし。ウチらが担当すっから二人は休憩してなー」
「…周りの空気に当てられて、イチャイチャしないでくださいね」
ニッコリ笑う美未ちゃんに謎の釘を刺される。
慎吾はムッとしていたようだが、アタシは特に気にする事もないので笑顔で手を振り返した。
しかし、酷い列だ。それもそうか。
この人数がパーク内のアトラクションに分散して、さらに行列を作るわけだから、今がピークに近い行列という事になる。
つまり、ここが最初にして最大の難関というわけだ。
「慎吾はこういう人混み、大丈夫な人?」
「…正直、得意ではありません。人が密集していると、あまり呼吸したくないと思えるほどに…。…ですが」
「ですが?」
「…近くにいるのがうぃんさんであれば、全く苦ではありません」
「変態か」
サラッと癖を出されたような気がしたので牽制しておく。
しかし、慎吾は心外だというように首を傾げる。
「うぃんさんも好きな人が出来ればわかります」
「…そういうもん?」
「ええ、相手の全てを受け入れられる気がしています」
「…そっか、それは、すごいね」
素直に感心する。
「可能であれば、その相手が僕であれば嬉しいですけど」
「あのなぁ、アタシは最近女になったばっかなんだぞ!?いきなり男を好きになれって言われても、それは難しいって!」
「僕は勝利さんの頃から、うぃんさんが好きですけどね」
「…そ、それは…まぁ、そう…なのかもしれないけど!」
それを言われたら弱い。
「うー…ま、まぁそうだな、アタシだって全くゼロだとは思ってないよ」
「…と言いますと?」
「…い、一応人の心は持ってるし?好意を向けられたら、そのうちどうにかなっちゃうかも、しれない…よ?って、コト!」
「それを聞けて安心しました、僕はこれからもアピールしていこうと思います」
そうなるよねー、自分で『そうしたら?』って言ったんだから。
でもまぁ、本当にその通りだと思う。
人の心なんて、いつどうなるかわかんないんだから。
「ハッ!?」
不穏な何かを感じ、そちらを振り向くと、美未ちゃんがこちらを凝視していた。
美未ちゃんの感知能力…エグすぎないか。
何か出来ないかと短い時間で思考を巡らせた結果、自分の唇に人差し指と中指を添えて、小さく投げキッスをしてみた。
すると、美未ちゃんは『しょうがないなぁ』と言わんばかりに苦笑し、あずきとの談笑を始めたようだった。
いいんだ、これくらいでまるくおさまるのであれば。
◆
「お待たせー、パス全員分ゲットしたしー!」
「全然、待ってないよ!むしろあの人混みに行かせてごめん、すごく助かった!」
アタシは二人にお礼を言った。
アタシがあのチケット売り場に並ぼうもんならそれだけで体力の限界を迎えていたに違いない。
「そんで九頭龍ー、パス代立て替えといたけどどうするしー?」
「それに関しては、後で今日かかった費用の領収書を渡してくれないか?僕が払えるタイミングであれば都度支払うつもりだ」
「オッケー把握ー!サーンキュー!」
あずきと慎吾の間で話がまとまったようだ。
しかし、四人分の出費となると…大変な事になりそうな気がする。
こういう所の食事代だって馬鹿にならないだろう。
アタシは慎吾の袖をクイクイと引っ張る。
「…本当に大丈夫?」
「もちろんです。今までの貯金がありますし、普段あまり使わないので。それより…」
「それより?」
「…袖を引っ張られるのって、こんなに嬉しいんですね。うぃんさんの可愛さが引き立つしぐさです」
「バッ…カ!」
「おやおや?私のレーダーが甘ったるい気配を感知しているようです」
声のした方に振り返れば、笑顔のまま圧を放つ美未ちゃんがいた。
「み、美未ちゃん!?っていうかさっきから殺気立ちすぎッ!アタシと他の人との交流を待ってくれるんじゃないの!?っていうか、そんなに気にしてると疲れちゃうよ!」
「待つとは言いましたが…意中の方が落とされそうになっていると、やはり胸中穏やかではありませんので」
出た…好戦的な美未ちゃんの一面。
アタシはそれを引き出すトリガーになってしまっている。
冷静な美未ちゃんの暗黒面をあっという間に引き出す存在、アタシは自分で自分が恐ろしくなった。
「はい入園時間だしー、行くようぃん!」
「え!?」
あずきは急にアタシの腕を掴むと、入場ゲートに向かって走り出した。
突然のことにアタシを含めた三人が驚く。
「あ、あずきちゃん!?」
「美未、ウチも狙ってるしー!油断大敵ー!」
もう何が何だかわからないアタシは、あずきって思ったより足速いんだなーと思考を放棄するのだった。
「うぃん!」
「何?」
「ウチもちゃんとアピールすっかんね!」
「…お手柔らかにお願いします」
あずきはニヤリと笑うと、走る速度を上げていった。




