女の子一日目→始業式?
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
十三 龍也:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。のんびり屋。勝利とは幼馴染。一人称はオレ。
休み明け初日にさ、体育館に押し込められて、校長の話聞けって?
無理無理、たとえじいちゃんの話だったとしても、アタシはこうするね。
ーーガラガラ。
廊下に誰も居ないことを確認すると、上の窓からよじ登る。
「よいっしょっと…」
窓枠を乗り越え、室内に着地する。
「おー?しょーちゃんきたかー?」
たっつんの背中越しにアナログテレビを覗き込む。
画面にはゲーセンでも見かけるガンシューティングが映っているが、たっつんは『パッドのコントローラー』で照準を次々合わせては、華麗にゾンビを撃ち抜いていく。
ここ、パソコン部の部室には、ガンコンがない。
だからアタシたちはこの高難度のゲームを十字キーで照準を合わせるのだ。
「今集中してっからー、チョッチ待ってれー」
「アタシも参戦してもいいかな?」
「…」
「あ!?」
ギュルンッ!という音が聞こえそうな速度でたっつんが振り向く。
アタシは手をひらひらさせると、笑顔をみせる。
「へへ、アタシが誰かわかる?」
「え!?は!?…しょー…ちゃん、っぽいけど…え?」
「さすがたっつん、幼馴染」
たっつんの隣りに腰を下ろすと、「ほら、ゾンビ来てるよ?」
「あ!あぁ!?え!?」
絶賛混乱中のたっつんはテレビとアタシを交互に見るが、そんな状況でクリア出来る難易度ではなく、あっという間にGAMEOVERの文字が浮かび上がった。
ちなみにこのゲームにコンティニューという甘っちょろい機能はない。家庭用に移植された際、なぜか撤廃されてしまった。
「…しょー、ちゃん?」
「うん」
「え、待って意味わかんない、何その制服、何その胸」
「どっちも本物だよ、触ってみる?」
「え!?ええ!!?」
目を見開き、今度はアタシの顔と胸を交互に見る。
フハハ、たっつんおもしれー。
◆
「はぁー…じゃー、コンビニで別れた後、そんなことになってたんかー」
「そうなんだよねー、いやー我ながらとんでもないことになった」
「しょーちゃん、どっか他人事なんだよなー」
たっつんが笑う。
それは仕方ない、実際起きてからまだ二日目なんだから、全然実感がないのよ。
「女の子になったのはどうあれさー、家庭環境が改善されたのは、良かったなー」
たっつんが満面の笑みを浮かべる。
「本当に、そう思う」
「しょーちゃんの悩みのタネだったからねー」
「なんだかんだあったけど、仲良く暮らせそうな気がするよ」
「うんうんー、良かったねー。ところでさー」
たっつんが腕を組む。
「喧嘩、どうしよっかー?」
「それなー…」
家庭の幸せと引き換えに、アタシは喧嘩を失った。
正確には、喧嘩で勝つための力を失った。
今のアタシは、とても二人に並び立つことは出来ない。完全な足手まといだ。
「いきなり『ハイおしまい』とはいかなくても、それとなく、終わりを匂わせるしかないのかもね」
「そっかー…慎吾にも伝えないとなー」
「し、慎吾…ね」
「?」
不思議そうな顔で覗き込んでくる。
いや、不思議なのは慎吾の方。アタシはふつ…普通じゃないけど、おかしいのは絶対あっち。
「たっつんさ、慎吾が女の子に優しくしてるところ、見たことある?」
「慎吾ー?いやー、っていうか性別にカンケーなくそっけないよねー」
「…だよねぇ」
「なんかあったんー?」
「んー、通学路でアイツに会ったから、先に事情を説明したんだけどさ…」
「笑顔で手を握ってきたー!?」
「…うん」
驚き顔は次第に笑顔に変わっていった。
「それね、多分好きが溢れたんだと思うよー」
「…何それ」
「なんで勉強大好きな慎吾が喧嘩に参加してるか知ってるー?」
「もちろん、ストレス発散でしょ?」
「それは口実ー。本当はねー、忙しい時間を削ってしょーちゃんとの時間を確保してたんだよー」
「はぁ!?」
無意識にのけぞりながら大袈裟な反応をしてしまう。
「慎吾はしょーちゃんラブだったからねー、女の子に興味なかったのは、それはそー。だってしょーちゃん一番だったからー」
「え、待って待って全然わかんない」
「言葉通りだよー」
え、つまりだよ。アタシが男だったから、近くに居ただけで済んでたけど、アタシが女になった以上、何も遠慮することが無くなったって…コト!?
「そんなことありゅぅ!?」
「あるんだろうねー、元々しょーちゃん可愛かったじゃん。女の子になって可愛さマシマシだよー」
こちらの葛藤をお構いなしに、おかしそうに笑う。
「…え、たっつんは?アタシをそういう目で見たり、するの?」
恐る恐る聞いてみる。
「オレ?オレはー、そうだねー…複雑、かなぁ」
ポリポリ頭をかく。
「一応親友ポジだったはずのしょーちゃんが、女の子になっちゃったわけでしょー?…しょーちゃんのことは好きだけど、これからどうなるんだろーって感じ」
「それはそう」
それが普通の反応だと思う。慎吾が異常なんだ。
とはいえ、アタシとしては数少ない友達がいなくなるのは、とても困る。なので、
「アタシは…うぃんとしてだけど、これからも一緒にいてほしい」
たっつんは驚いた顔でこちらをみると、いつも通りの笑顔で、
「それはそー」
と微笑んでくれた。