アタシたちの中間試験4
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
【五月十三日(月)】
未だかつてここまでのハイテンションで登校した事があっただろうか。
自己採点の結果は、国語が92、数学が90、英語が84、理科が91、社会が86の合計443点。
美未ちゃんの見立てでは、合計450点が取れれば三十位圏内だろうとの事。
450にはやや足りないが、それでも随分な高得点である事は間違いない。
ただし、これはあくまで自己採点。
マル付けをする教師とのニュアンスが異なれば、減点は免れない。
浮かれすぎないように、との気持ちで現実に思いを馳せるが、それでも高ぶる感情を抑えきれない。
自然と教室へ向かう足は早まっていった。
◆
ウチの学校はショートホームルームの時間に個人成績カードなるテスト結果を渡してもらえる。
そこで各教科の点数や合計点の順位などを知ることが出来、詳しい内容は各教科ごとに任せるといったスタイルになっている。
「それじゃ、出席番号順に渡すから呼ばれたら取りにくるように」
出席番号の一番から順番に呼ばれていく。
個人成績カードを受け取った生徒たちは、喜怒哀楽、みな異なる表情を浮かべていた。
「次ー、九頭龍。…お前は相変わらずだな」
「どうも」
相変わらず…?ということはつまり、
慎吾はアタシに視線を向けると、微笑んで見せた。
…あんなに妨害しても効果は無かったということか。
って、なんだよー!これじゃーただのサービスじゃないかー!
アイツを喜ばせただけってかー!?
ハッ、まさか『まんじゅうこわい』作戦!?
イヤがってたフリ!?
「次ー、皇」
「は、はい!」
馬鹿みたいな妄想をしているうちにアタシの番になっていたらしい。
小走りで教壇に駆け寄ると、担任、猪狩 平次の前に立った。
「お前は意外だな、始業式をサボったり色々問題を起こしているが…成績は良いじゃないか。…見た目もいいし、そのうち特別講義をしてやらんでもないぞ」
「はぁ…ありがとうございます」
ドセクハラじゃねえか。
私立学園とはいえ、よくそんな発言で生きてこられたものだ。
今のを録音してたら一発アウトだろ、気持ちわるぅ…と思いながら個人成績カードに視線を下ろすと、
『合計438点 順位28位』
「おえ!?やったあああああ!!!!」
アタシは美未ちゃんの席まで駆け寄ると、美未ちゃんの机に個人成績カードを広げる。
「美未ちゃんありがとう!三十位以内に入れたよッ!!」
「おめでとうございます、うぃんちゃん!全部うぃんちゃんの頑張りのおかげです!」
「そんな事ないって!本当にいっぱい時間もらってありがと…って、猪狩がこっち見てるから席戻るね…」
猪狩の目がねちっこく非難しているので、アタシは自席に退散する事にした。
「…さっきのうぃんちゃんへの発言、許せないです」
わぁ…表情がコロコロ変わり、今はとっても怖い美未ちゃん。
去り際に聞こえた美未ちゃんの声に、アタシは愛想笑いをしておいた。
猪狩、夜道には気をつけたほうがいい。
◆
「さすがうぃんさんです。僕も条件は達成していたのですが、…まぁ、兎月も最低限の仕事はしたという事でしょうか」
アタシにはいい笑顔を見せておきながら、美未ちゃんに話を振った時にはエグいくらい無表情、器用だな。
「本当は私も九頭龍さんに勝って完全勝利といきたかったのですが、今回は勝負に勝つ事が目標だったので…そういう意味では満足です」
美未ちゃんの笑顔が怖い…バチバチだ。
今アタシとあずきは当事者であるにも関わらず、会話に参加出来ずにいる。
「ところで、勝負に勝ったという事は…ディスティニーパークの件、忘れていませんよね?」
「ぐっ…あぁ、もちろんだ」
アタシが中間試験で学年三十位以内に入った場合、アタシ、美未ちゃん、あずき三人分のパスポートと、それに伴うクイックパスまで支払って貰えるとの約束だった。
だが、クイックパスまでともなるとさすがに…。
「ね、ねえ美未ちゃん…今回、クイックパスは遠慮しない?」
「あら、どうしてですか?」
えー、どうしてでしょう…。
「一番は正直…慎吾のお財布事情を察しての事なんだけど」
「それは事前に相談済みのはずですよ?」
「そうなんだけどね、やっぱり可哀想でさ…一つのアトラクションを三人で、三千円でしょ?それを次々ってなると…大変だろうし」
「それは…まぁ」
美未ちゃんが『うーん』とうなる。
「それにさ、アタシ友達とテーマパークに行くの、初めてだから…。みんなで行列に並んで、アトラクションの話をしながら、ドキドキを共有したいなって…今から楽しみなんだ」
「…なるほど。
わかりました、うぃんちゃんが待ち時間を込みで楽しみにしているというのであれば、クイックパスの件は無かった事にしましょう。あずきちゃんもいい?」
「ウチは全然オッケーだしー!パスポートだけで儲けもんだしー」
あずきがピースサインで笑顔を見せる。
「…すみません、お三方。気を遣っていただけるようで」
慎吾の言葉に美未ちゃんが人差し指を突きつける。
「これは九頭龍さんを思っての事ではなく、うぃんちゃんの要望に沿った結果である事をお忘れなく、です」
「ありがとう、美未ちゃん…ごめん、美未ちゃん、もう一ついいかな?」
「もう一つ…ですか?」
美未ちゃんがキョトンとした様子でこちらを見る。
「うん。実は、クイックパスで浮いた分で…慎吾も連れていっていい?」
「「「え!?」」」
三人揃って声を出す。
だよねー。
「アタシさ、元々は慎吾に勉強を教わってて、沙耶との一件でうやむやになっちゃったけど、間違いなくアタシの学力向上には貢献してもらってるんだよね」
「…うぃんさん」
慎吾がキラキラした目でアタシを見る。
やめて、なんか萎える。
「だから、これ以上除け者にするのはイヤだ。そもそも、慎吾はアタシの仲間なんだから」
アタシの言葉を黙って聞いていた二人は、お互いの顔を見合わせると「ふふっ」と笑った。
「本当に、うぃんちゃんはお人好しですね」
「でも、そんなうぃんが好きなんだから、そのままでオッケーだし!」
美未ちゃんも、あずきも、快く受け入れてくれたようだった。
アタシは慎吾を見て、「慎吾もついてきてくれる、でいいのかな?参加してくれる?」
「さ、参加したいです!ぜひお願いします!」
慎吾がガバッと勢いよく頭を下げた。
ふぅー…なんだかんだで、これでアタシの中間試験も無事に終えられたかな。
「よし、じゃあこの後デスティニーパークへ行く日程を調整しようか!」
「「「おー!」」」
こうしてアタシたちは常連とも呼べる頻度で喫茶店に通うのだった。




