アタシたちの中間試験3
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
【五月八日(水)】
アタシは今日もネームマーカーを持ち、慎吾の席まできた。
「…またですかうぃんさん、言っておきますが、もう『すき』程度では動揺しませんからね」
アタシは慎吾の左手に、『もっとすき』と書いた。
「ああああぁぁぁ…」
◆
【五月九日(木)】
アタシは今日もネームマーカーを持ち、慎吾の席まできた。
「…いい加減にしてください、僕にとって実は深刻なダメージだという事を理解して」
アタシは慎吾の左手に、『きのうよりすき』と書いた。
「ああああぁぁぁああああッ!!!」
◆
【五月十日(金)】
アタシは今日もネームマーカーを持ち、慎吾の席まできた。
「…書くんですよね、もう好きにしてください…もう喜ぶ元気すらありません」
アタシは慎吾の左手に、『いちばんすき』と書いた。
「ああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
◆
ーーキーンコーンカーンコーン。
「お疲れ様ー、解答用紙を後ろから前にまわしてー」
先生の合図を受け、解答用紙リレーが始まる。
…やりきった。
アタシの中間試験にいっぺんの悔いなし。
ふふ、テストがこんなに楽しい事だと思わなかった。
アタシは鞄を掴むと、ライバルの元を訪れた。
「どうだったかね、慎吾くん」
「今までで最低のテストでした…」
その顔から察するに、あまり芳しくはないといった所か。
アタシは慎吾の肩にポンっと手を置くと、出来るだけ優しい声色で、
「机の落書き、消しといて」
「…はい」
言われるがままにアタシの落書きを消しゴムで消す慎吾。
っていうか、それも初日に消しておけと。
アタシはクルッと回ると、美未ちゃんの所へ向かう。
美未ちゃんもちょうど席を立った所だった。
「美未ちゃん、帰ろ!」
「もちろんです、今日も採点しましょうね」
美未ちゃんの調子はいつも通りといったイメージ。
慎吾が不調で、美未ちゃんは好調…これは、あるか?ジャイアントキリング。
もし慎吾が学年一位でなければ、その時点でアタシたちの勝ちなんだから。
それはそれで、とても簡単な話…っていうか、最初からその線で動けばアタシが勉強する必要はなかったのでは?
「うぃんちゃん、どうしました?」
美未ちゃんが覗き込んでくる。
ドキッとしたが、平静を装って、
「なんでもないよ、ちょっとやましい事を考えてただけ!」
「それはなんでもあると思いますけど…」
美未ちゃんが心配そうに笑う。
「いやー、結局うぃんも健全な…なんだから、そういう妄想の一つや二つ、するっしょー!」
いつの間にか合流していたあずきが言う。
「で、誰で妄想してたし?」
「誰でって…まぁ、強いて言うなら、慎吾と美未ちゃんで」
「「はぁ!?」」
二人の声がハモる。
美未ちゃんに至っては今まで見たことのない嫌悪の表情だ。
「い、いや!アタシが全力で慎吾の邪魔したなら、簡単に美未ちゃんが勝ったかもしれないなって!そうすればつまり、アタシらの勝ちでしょ!?」
アタシの発言を受けて、美未ちゃんが残念そうに俯く。
あずきまで、額に手を当ててガッカリしたような顔を見せる。
「…うぃんちゃん、そうすると…私たちの楽しかった勉強の時間がまるまる無かったことになりますし、うぃんちゃんだって、なんの達成感も得られていなかったと思います」
「…そ、そう…だね」
「…そんな事言ううぃんちゃんは、少し、嫌いです」
そう言うと美未ちゃんは一人で教室を出て行ってしまった。
「あーあ、でも今のはうぃんが悪いしー。美未、毎日二人で勉強してるって、嬉しさ全開のメッセージくれてたしー。あと、本当は九頭龍にちょっかい出してるのも、あんまり良く思って無かったっぽいよー」
「そう…なんだ」
「うぃんは手加減されて勝って、嬉しい?」
「いや、あんまり…」
「そんな状態を作られたってことっしょ?…まぁ、なんだかんだ慎吾も嬉しそうだったから目を瞑るって言ってたけど、いい気はしてなかったんじゃねー」
「…」
アタシは美未ちゃんの気持ちを全然わかってなかった。
鞄を背負い直すと、あずきに「ありがとう、アタシ謝ってくる!」と伝え、走り出した。
◆
『廊下は走らないように!』廊下を走ってる時ほど思い出すが、そういう時ほど止まれない。
アタシは踊り場から階段を全段まとめて飛び降り、飛び降り、飛び降り、飛び降りて、昇降口についた。
途中スカートが捲れ上がっていたが、そんな事は気にしない。
それよりも美未ちゃんだ。
ちょうど美未ちゃんが外に出ようとしている。
「美未ちゃん待って!ごめん!謝らせて!」
美未ちゃんとその他の生徒がこちらを見るが、美未ちゃん以外はここでも気にしない。
アタシはサッと外履きに履き替えると、美未ちゃんの側まで駆け寄った。
「はぁ…はぁ、ごめん、階段全部飛び越えてきたから、ちょっとだけ息整えさせて…」
アタシは膝に手を置いて美未ちゃんの足元を見ているから、今どんな顔をしているかわからないけれど、少なくとも美未ちゃんの足は揃ってこちらに向いていた。
良かった。
アタシは背筋を伸ばすと、美未ちゃんの顔を真正面に捉える。
美未ちゃんの眉は八の字のままだった。
アタシは呼吸を完全に整えると、ゆっくり、
「美未ちゃん、ごめんね。美未ちゃんはアタシに勉強を教えてくれて、応援までしてくれた気持ちと、美未ちゃん自身が慎吾に勝ちたいという二つの気持ちを踏み躙るような発言をしちゃった…冗談で済むと思ったけど、不謹慎だったなって気付いた。だから、ごめんね」
「うぃんちゃん…」
美未ちゃんの眉は未だ八の字だったけど、口元は笑顔だった。
仕方ないなぁ…と思われているのだろうか。
「私は今回の勉強を、二人で乗り越えた…まだ乗り越えたかは分かりませんが、そう思ってるんです。毎日一緒に勉強して、テスト期間は自己採点して、大きな難関に立ち向かった。そのパートナーとして一緒に頑張れた毎日が幸せでした。その上で、私も九頭龍さんに挑みたかったんです。ですから、今謝っていただいた二つで、66パーセントは許しました」
「ゔぇ…の、残りの34パーセントは?」
「二度と私を、うぃんちゃん以外とカップリングしないでください」
「は、はい…」
なんだか、一番強く念押しされた気がする…。
「はぁ、スッキリしました!」
美未ちゃんはいつものニッコリ笑顔で空を見上げる。
「ふふ、それではいつもの喫茶店で自己採点しましょうか!」
「もちろん!じゃああずきも呼んでくるね!」
そう言うとアタシは、もう一度昇降口へ戻っていくのだった。




