アタシたちの中間試験2
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
ーーキーンコーンカーンコーン。
「はい、じゃあ解答用紙を後ろから前にまわしてくださーい」
先生の合図を受けて、ガヤガヤと会話が広がる。
意外とため息が多かったのが印象的だった。
なぜこんなに冷静なのかというと、かなり早い段階で問題が解き終わり、見直しまで終わっていたため頭のスイッチがオフになっていたからだ。
「それじゃ一日目はこれでおしまい、気をつけて帰るようにねー」
先生がそう言うと、各々帰り支度を始める。
アタシもカバンを持つと席を立ち上がり…お?
「…成果はいかがでしたか、うぃんさん」
やややつれた様子の慎吾がそこにいた。
「アタシは順調だけど…慎吾はダメそうね?」
「…恐らく大丈夫だとは思いますが、これのおかげで集中出来ませんでしたよ」
そう言うと自分の左手をアタシの前に突き出す。
そこには、アタシの筆跡で『すき』と書かれている。
「まだ残ってたの?それ…一時間目のテストが終わった時に洗えば良かったじゃん」
「洗う!?洗えると思いますか!?あなたの文字で『すき』ですよ!?消せるわけないじゃないですか!」
「…ま、待って待って、めっちゃ注目集めちゃってるから」
「ハッ…失礼しました…」
コイツはよくもまぁ恥ずかしい事をこんな大声で…。
「うぃんちゃん、どうでしたか?」
「あ、美未ちゃん!あずき!」
帰り支度を済ませた美未ちゃんとあずきがいた。
「任せて!パーペキだった!」
自信満々オーラ全開で応える。
「ぱ、パーペキ…ですか」
が、なぜか反応がイマイチな気がする。なんでだろう。
「とりあえず、帰ってから今日の自己採点と明日の対策で集まりませんか?」
「うん、もちろん!」
「ウチも行くー!」
「…え、僕も」
「九頭龍さんは、ダメです」
美未ちゃんがやんわり笑顔で、それでいて明確に拒絶する。
「ごめんね、慎吾…一応作戦会議みたいなもんだからさ」
アタシは顔の前で両手を合わせる。
慎吾は寂しそうな顔を見せるが、諦めてくれた様子だった。
「九頭龍が勝負なんかしかけなきゃ、今頃女の子に囲まれてウハウハだったんじゃねー?」
あずきが墓穴だと言わんばかりにダメ押しを入れる。
が、慎吾は背筋を伸ばしメガネの位置を直すと、
「勘違いしないでください。僕はうぃんさんさえいれば満足なので」
「…へぇ、そうですか。それじゃ行きましょう、うぃんちゃん、あずきちゃん。四分の二が興味ない人の勉強会なんてきっと不愉快でしょうから」
み、美未ちゃんが辛辣…。
慎吾…なんでそんなに燃料を投下するの…美未ちゃん、実はめっちゃ負けず嫌いなんだから…。
こうして、アタシたちは前に集まった喫茶店に向かうのだった。
◆
「うぃんちゃん、すごいです!初日は順調ですよ!」
美未ちゃんが、アタシの問題用紙に書き写した解答から採点してくれた。
結果は、国語が92、数学が90。
「ありがとう、美未ちゃんのおかげだよ!」
「いえいえ!二人で頑張った成果、ですよ」
美未ちゃんがニッコリ笑顔で言った。
「しかしすごいねー、ウチは最初のうぃんを知らんけど、めっちゃ勉強出来るじゃん」
あずきがアイスレモンティーを飲みながら言う。
「いやいや、最初は本当酷かったんだって…アタシもよくここまで形になったなって思うもん」
「だって、勉強始めたん進級してからっしょー?天才じゃん」
「…それはまぁ、アタシも『なんで?』って感じだけど」
ポリポリと頭をかいてみる。
「うぃんちゃんは何故勉強をしなかったんですか?」
やったらここまで出来るのに、と言いたげな美未ちゃん。
「んー、慎吾にも言ったんだけど、勉強しなかったのはじいちゃんの影響なんだよね。『お前は勉強なんかしなくてもいい!学校ならウチに入れてやる!学校は通うだけで構わん!』って言われ続けたから」
「…それを最初に言われた時は、どんなシチュエーションだったんですか?」
美未ちゃんが食いついてくる。
えーと、あの時は確か…。
「アタシが小学生で、初めて将棋を教わった時だったかな?駒の動かし方を教わって、そのままじいちゃんと手合わせして」
「ま…まさか、勝ってしまったんですか?」
「そんなわけないって、負けたよ!でも昼飯から夕飯までずっと勝負してたっけ」
「そんなに何度も勝負されるほど…楽しかったんですか」
「いや、一回の勝負で」
「い、一回でそんなに長時間!?初心者の、小学生が!?」
ありえないといった様子の美未ちゃん。
あずきは引き続きレモンティーを飲みながら、「それってそんなすごいん?」と聞いた。
「五時間以上も勝負に没頭出来る集中力もさる事ながら、何よりその時間を対等に戦えたという事が異常です…」
「まぁまぁ、じいちゃんも初心者だから手加減してくれたのかもしれないしさ。それはそんな気にしなくてもいいと思うよ」
「気にしますよ!どうやらお祖父様はそういった日常からうぃんさんの非凡さを感じとったのでしょう…」
そう言うと、美未ちゃんはハッとした顔でアタシを見る。
「焼肉屋さん!ショッピングモールの時です!あそこでエスコートしてくれた知識は、お祖父様によるものでは?」
「ん?それは…そうだね。じいちゃんと一緒にいると、そういう事は説明してくれるから」
「…大袈裟かもしれませんが、お祖父様はうぃんちゃんに帝王学を学ばせ、次期理事長に据えようとされているのかもしれません」
合点がいったという様子で頷く美未ちゃん。
「ま、まさかぁ…だってアタシ、馬鹿だよ?」
アタシが笑いながら言うが、美未ちゃんは考えを整理するようにテーブルの一点を見つめている。
「…意図的に学習から遠ざけたように思えます。理事長だからといって、勉強が出来る必要はありません。それよりももっと必要な知識は山ほどあります。そのために無駄なキャパを割くのは非効率だと判断されたのでしょう」
「…マジかよ」
美未ちゃんの説明が、アタシとしてもしっくりきたため、思わず言葉が漏れる。
美未ちゃんが唐突に『パンッ』と手を叩く。
「全て憶測です。私から振った話で恐縮ですが、中間試験に話を戻しましょうか」
「そ、そうだね…あずきもつまらなかっただろうし」
「ウチ?ウチはちゃんと聞いてたよ。うぃんが今まで以上に実っていく存在だと知って、もっともっと美味しくなーれ…って思ってっし」
「「ッ!?」」
ニンマリ笑顔で笑うあずきが、一番怖いと思ったアタシだった。




