アタシが馬鹿だったらどうする?6
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
「…採点が終わりました」
美未ちゃんがアタシに答案用紙を返却する。
アタシは恐る恐る点数を確認する。
国語:95
数学:75
英語:60
理科:68
社会:72
計:370
「…ウソでしょ」
慎吾と解き直した一年生の学年末再試験が117点だった事を考えると、370点は大躍進だ。とはいえ、これではきっと…。
「美未ちゃん、この点数って学年三十位以内には…」
「まだ難しいですね。最低ラインが400だと思ってください」
美未ちゃんは「最低ですよ?」と念押ししてきた。
やはり簡単ではない、が、自身の成長を実感した今は無理だとは思わない。
「やはり英語が一番低いですね。文法はもちろんですが、どれくらい単語を覚えているかも重要なので、積み重ねのないうぃんちゃんには苦手科目に見えます」
「それはわかる…何をしたらいいかわかっているのに、英単語のボキャブラリーが足りなくて」
アタシの弱った顔を見て、美未ちゃんが微笑んだ。
「大丈夫です。少なくとも『中間試験としての対策』をするのであれば、詰め込む量は限られてきます。勝ちましょう」
「うん、ありがとう美未ちゃん」
美未ちゃんの言う通りだ。
これからやるのは勉強を始めたての基礎詰め込みじゃない。
範囲が決まっているごくごく狭い範囲の習得。
正直、自分の成長具合からして手応えしかない。
「ですが…少し休憩しませんか?私、自習と採点で少し脳が疲れてしまいました」
美未ちゃんが八の字の眉で困ったような顔を作って見せた。
「うん、休憩しよう!」
採点待ちで少し休憩出来たけれど、それでも模擬テストを三時間ぶっ続けで解いたのはさすがに疲れた。
「また喫茶店行く?何か頼んでもいいけど」
「私は水でもお茶でも構いませんので、もう少しうぃんちゃんのお家で勉強したいです…いいですか?」
美未ちゃんが照れながら?言った。
「…もう少し、好きな人の部屋を堪能したいんです」
「ッ…」
妖艶。
反撃だ。
アタシの攻撃に対する、致命的な一撃となりうる反撃。
危なかった…アタシが長男じゃなかったらとてもじゃないが耐えられなかった、というか既に大ダメージを被っている。
美未ちゃんはといえば、既にいつものニコニコ笑顔に戻っている。
「そういうことなら、ちょっと待ってて。アタシがスゴいの見せてあげる」
やられっぱなしではいられない、目にもの見せてくれる。
◆
「お待たせー、普段使わないから探すのに手間取っちゃったー」
アタシはトレイを片手に持つと、自室のドアを開けた。
「おかえりなさい、ありがとうござ…」
美未ちゃんがお礼を言おうとして止まる。
視線はアタシの持つトレイに集中している。
そうだろうともさ、震えるがいい!
アタシはトレイをテーブルに置く。
トレイには二つのストローが入ったオレンジジュースが一つ。
アタシたちは、二人で一つ。
「ところで、このジュースを見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく…やり過ぎです…」
美未ちゃんが顔を背ける。
…やり過ぎちゃったかぁ。
「…それ、私と飲みたいんですか?」
「…特に、考えてなかった」
「…考えてなかったんですか?」
「…恥ずかしがらせる事で反撃の反撃をしたかったというのが本音」
「…バカですね」
「…馬鹿だね」
アタシが認めたところで、美未ちゃんがクスクスと笑い出した。
お、許された?
「本当に、やり過ぎですよ」
「面目ない」
しゅんと落ち込む。
「私とあずきちゃんならまだしも、うぃんちゃんとは…」
「ん?あぁ、そうか…アタシとはそこまで仲良くないか」
アタシは恥ずかしさから自分の頭をかく。
「…それ、本気で言ってますか?」
「え…あれ」
何故か美未ちゃんから、今までと一線を画す明確な怒りを感じる。
怖い。
美未ちゃんが「はぁ…」とため息をつく。
「あなたにはちゃんと言わないと通じないみたいですね」
「ヘぁ…ごめんなさい」
思わず変な声が出る。
「いいですか、私とあずきちゃんは確かに仲良しで大好きな友達です」
「…はい」
「その上で、私はうぃんちゃんに対して、好意を抱いています」
「…はい?」
「勉強を教えたいと思っているのも、好意からくる衝動です」
「待って待って」
思わず話を止める。
「えっと…アタシが好き?なのはなんとなくわかったけど、あずきを好きだっていうのと、アタシに好意があるっていうのは、どう違うの?」
「好意は好きより一歩進んだ感情です。好きな相手に何かをしてあげたいという欲求が生じるのが、好意であると私は認識しています」
「なるほど…?つまり、アタシは…あずきより好かれているという事…だな?」
「もっとわかりやすく言うと、特別な関係、交際してほしいです」
「ッ!?」
唐突な告白だった。
話をよく聞いて理解しようと努めている最中であった事が、より大きな衝撃を受ける。
「え、あ、アタシは!…アタシ、も」
「いいんです、うぃんちゃん。まだ付き合いは浅いですが、うぃんちゃんの事は少しずつ理解してきているつもりです」
「…というと?」
「うぃんちゃんは人助けを通じて、自分に好意を持ってくれる事を期待していました。しかし、仲良くなった相手に迷惑が生じる可能性があったために、交流を避けてきた」
「…うん」
「しかし、うぃんちゃんになったことで自衛力が失われ、人を頼らざるを得なくなってしまった。そうして生まれた交流が、今はとても楽しいのではないですか?」
「…そう、だね、…楽しい」
美未ちゃんは満足そうに頷く。
「ですから今のうぃんちゃんは、好意を寄せられた相手全員に、好きで返している状態なんだと思います」
「…言われてみれば」
思い当たる事は多い…教室での公開リップサービスが良い例だ。
あの晩は悶えた。
「今は私との交流が深まっているため、私に対して気持ちを向けてくれていますが、これからはもっと他者との交流が増えると思います」
「うん」
「もし、色々な方と交流をして、それでも私に一番近くにいて欲しいのであれば」
美未ちゃんが片方のストローを摘む。
「その時は、一緒に飲みましょう。私、待ってます」




