アタシが馬鹿だったらどうする?4
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友、小倉の姉。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
【四月三十日(火)】
「うぃんさん、おはようございます」
「あ、慎吾、おはよー!」
席に着いたところで、珍しく慎吾から声をかけてきた。
「いよいよ来週から中間試験が始まりますね、また勉強会しませんか?」
「ありがとう!でも昨日も美未ちゃんに教えてもらったし、慎吾は自分の勉強に集中してもらって大丈夫だよ!」
「…は?」
笑顔のまま、慎吾の口元がひきつる。
「昨日は…昭和の日、でしたよね?」
「うん。美未ちゃんとあずきと一緒に喫茶店で勉強してたんだ」
「はぁ!?喫茶店!?なんですかそのシチュエーション!!休日に友達で集まってキャッキャウフフしてたと言うんですか!?」
コイツ、アタシの性別変わってからキャラ崩壊してきたなぁ。
…そこまでアタシに好意を持ってるってこと?
なんか、それはそれで複雑だなぁ。
アタシが男の頃からだもんなぁ。
「美未ちゃんも教えるのが上手だから、アタシの学力メキメキ向上中だよ」
グッと親指を立てて見せる。
慎吾は自分の額に指を当てると、そのまましばらく硬直モードに入る。
どうしたー?大丈夫かー?
やがて慎吾はこちらを見ると、
「わかりました、勝負しましょう」
「はい?」
唐突に訳のわからない事を言い出した。
「何で?誰と、誰が、何の?」
「僕と、うぃんさんが、成績の」
「成績で?馬鹿と学年トップが?競うの?どうやって?」
「まず前提としてうぃんさんは馬鹿ではありません」
イチイチそこ訂正すんのな、律儀。
「もちろん、直接点数で勝負するわけではありません。順位で勝負します」
「いや、それがどうやって勝負になるかわからん。1位と底辺の勝負だぞ」
「まず、僕が1位を取れなかった時点で、僕の負けです」
「ほう?それはまた…」
「その上でうぃんさんには、学年百五十人中、三十位以内に入ってもらいます」
「はぁ!?アタシが三十位!?」
何を言ってるんだコイツ、今まで底辺這いつくばってたアタシが三十位。
そこまでして勝ちたいのかコイツは。
「勘違いしないでください、別に僕は無茶なラインを設定しているわけではありません」
「…いや、無茶だろ」
「無茶なラインを設定しているわけではありません」
繰り返し強調してきやがる。
「少なくとも」
「少なくとも?」
「僕がうぃんさんに勉強を教え続ければ、これくらい余裕です」
…なるほど。コイツ、美未ちゃんと競ってんのか。
アタシの先生役を取られて根に持ってんだな。
「ふぅん、勝負の内容はわかった。アタシがどこまでやれるかはわかんないけど、受けてやるよ。で?お互いが賭けるものはなんだ」
「そうですね…僕が勝ったら、これからの先生役は僕に任せてもらいましょう」
「…何でそこまで熱心なのかわからんが、まぁ…構わない」
アタシの承諾に口角をにんまりと上げる。
それはわかった。
じゃあ次はこっちの番なんだが…。
「なぁ、…アタシが勝ったらどうすればいい?」
「え、…何か、ないんですか?」
慎吾がポカンとした様子で聞いてくる。
「ない」
「…」
ない。
アタシの言葉に愕然とする慎吾。
正直学年で三十位以内となれば結構難しい事だと思う。
それに見合う対価を要求するとなれば、相応にハードルが上がると思うのだが。
何にもない。
「…じゃあ、何もないから、この話は無かったということで」
「はああああい!!提案がありますッ!!」
コイツいよいよぶっ壊れてんな。
もはや珍しくもない、取り乱した様子で慎吾がアタシの前に立ちはだかる。
「もしうぃんさんが勝った場合、夢の公園!デスティニーパークにご招待しましょう!」
「ほう?」
夢の公園、デスティニーパーク。
『何度も行きたい娯楽施設部門』でベスト5常連の有名テーマパークだ。
六十分待ちなどは当たり前で、いかに時間を潰して乗り物に効率良く乗るかが求められる、職人の遊び場だ。
「私、デスティニーパークに行きたいです」
登校してきた美未ちゃんが割って入る。
「おはよう美未ちゃん!」
「はい、おはようございますうぃんちゃん」
今朝もニッコリ笑顔で応じてくれる。
「実は、慎吾から中間試験の勝負を持ちかけられててさぁ…アタシが三十位に入らなければ、先生の役目を慎吾に任せて欲しいって言うんだよね」
「あら…それはそれは」
美未ちゃんが笑顔のまま慎吾を見る。
慎吾は一瞬だが仰け反ったように見えた。
美未ちゃんの圧、強し。
「それで、私達が勝てば…デスティニーパークに招待していただける『上に』、クイックパスも融通して貰える…ということですね?」
「なッ…」
慎吾はまたも怯んだように後ずさる。
クイックパス。
それは一アトラクション、一名あたり千円を支払う事で、待ち時間を短縮して乗る事が出来る夢のチケットだ。
あまりにもブルジョワな提案に、アタシまで眉間に皺が寄る。
「…それを、私とうぃんちゃん、そしてあずきちゃんの三人分、ですね」
「さッ…!?」
慎吾の表情がみるみる曇る。
「当然ですよね…自分に有利な勝負で、自分が望んだ報酬を望んでいるのですから…これくらい、道理っ…!!」
なんだかざわざわしてきそうな美未ちゃんの口上に、やや検討していた様子の慎吾はやがて、
「…わかりました、それでいきましょう」
と、弱々しく吐き出したのだった。
なんてこった、どちらのためにも手を抜くわけにはいかないが、これ以上慎吾を痛めつけるようになれば、いよいよもって申し訳なさの極みに達してしまう。
とはいえ、これは慎吾から言い出した勝負。
アタシはアタシが出来るベストを尽くそうと決めたのだった。




