女の子一日目→通学路
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
なんだ…これは。
いつもより視線が刺さる…気がする。気のせいか?性転換したもんだから、気が張ってるだけか?
…そうだ、きっとそうに違いない。
そうだよ、皇 勝利の頃は暴れん坊だったけど、今はただの女の子だぜ?人畜無害なうぃんちゃん!そう、アタシは文字通り生まれ変わったんだ!何を臆する必要がある?ないさ!何もな!
「お」
目の前を歩くは、双龍の慎吾くんじゃねーの!通学路でもスマホで情報収集か、本当に勉強の虫だなぁ!…ん?本の虫だったか?というか、チャリ通じゃなかったっけ?
「慎吾ー!はよーっす!」
俺は精一杯手を伸ばして慎吾の肩に手をかける。
「なんだお前、また背のびたんかー?こっちの腕がしんどいっつーの!」
「…」
ーーガチャ!
うおっ!?慎吾が手に持っていたスマホを落とした!
「何やってんのお前ー!?うわー!アタシのせいか!?傷とか入ってねーか!?」
アタシは慎吾のスマホを拾い上げると、あちこち回して傷の有無を確認した。幸い、傷は入っていないようだ。こういう時スマホカバーが着いているのは本当に助かる。
「いやはは、急に話しかけてビックリしたよな、ごめんごめ…」
「…」
慎吾が動かない。
「し、慎吾…くん?」
「ぁ…あり、がとう、すまない」
慎吾は口を半開きにしながら、スマホを受け取った。
ーーあ、思い出した。
アタシは今、女なんだ。
そして、慎吾は女性に興味がない。
よく遠巻きに慎吾を見にくる女性ファンはいるが、慎吾はまるで興味がないというように彼女らを空気扱いする。高身長、好成績でありながら、孤高。そんな残念要素も入り混じった慎吾はとにかく、女性関係の噂を耳にする事がなかった。
まさか学園内の数少ない友達が、性転換によって減ることになろうとは…。やばい、アタシちょっと、いや、結構ショックだ。
アタシは顔の前で手を横に振ると、力無く笑って見せる。
「い、いやいや、アタシこそ急に話しかけてごめんね、それじゃ…」
「待ってください」
「ぁぇ?」
腕を掴まれた。慎吾に。
「え、ど、どうしたの?」
戸惑うアタシ。
「もしかして、新入生…ですか?どこで僕の事を?」
質問口調こそいつもと変わらないが、その表情は、
とても笑顔だ。
え、やだ怖い、コイツ女子には塩対応なんじゃないの?
なんならアタシとたっつんにもデフォ塩対応だったのに、その笑顔はどこに向けられているの?
ぉぅ、アタシか。
「え、えーと…な?その、慎吾とたっつんには、あらかじめ言っておこうと思ってたからさ、その…歩きながら言うんだけどさ」
「?え、えぇ」
「アタシ、皇 勝利なんだよね」
「…は?」
◆
「つ、つまり…家庭環境を円満にするために、キミが女性になったと?」
「うん…そういうことに、なった」
へへ、と笑ってみせると、慎吾は眉間に中指を当ててうめいた。
「まぁ…そうですね、学力の足りない孫を入学させるような親族をお持ちですから…」
「あは、あははは…そうなんだよ、アタシも家族が喜ぶなら、それもいっかなって…多少強引ではあるけど」
ヘラヘラと笑ってみせると、慎吾は驚いたように顔を背けた。
「慎吾?」
「い、いえ、なんでもありません…」
そういうと、またアタシの方をチラリと見ては、視線を逸らす。
なんだ、なんなんだこの時間。
「だから、アタシが性転換したことについては基本秘密なんだ。そうだなー、慎吾とたっつんくらいかな、アタシが報告するつもりだったのは」
「僕たちだけ…ですか?」
「…そう、ですか」
慎吾がやはり視線を逸らしながら、折り曲げた人差し指で口元を隠す。
だからなんなんだその感じ。
「慎吾は、…イヤじゃないか?その、アタシが女になって」
気まずかったので、地面を見ながら問いかける。すると慎吾は長い身体を腰で曲げながらアタシの顔を覗き込んだ。
「…そんなことはありません。僕は今まで通り、キミとの交流を続けますよ」
「そ、そうか!?やったー!ありがとう、やっぱ持つべきものは戦友だなー!」
「なんでしたら、今まで以上に」
「え?」
笑顔だ。やだ、なんか慎吾がいつもと違う。こんな慎吾見たことない。
「ところで、キミが勝利であることを隠すなら、なんと呼べば良いのですか?」
「それな!アタシは『皇 うぃん』だ!勝利とWINがかかってるんだ!」
「うぃんさん…」
「素敵な名前だ」
おいおいおい本格的にどうしたんだコイツ。違う、いつもはもっと塩対応だろうが、一体何がコイツをこうしてしまったんだ?もしかしてコイツ今39℃くらい熱が出てるんじゃないだろうか。
そんなアタシの心配をよそに、
「立ち話が過ぎましたね。早く行きましょう、うぃんさん」
手を繋がれた。
「ぅぇ!?あ、えぇ!?」
遠巻きに多くの悲鳴が聞こえた気がした。