アタシが馬鹿だったらどうする?2
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
「驚きました…本当に吸収が早いです」
「慎吾にも言われたんだけど、アタシっておかしいの?」
賢そうな二人から言われると、とても不安になる。
「おかしいというか…凄いです。記憶力、応用力、共にずば抜けています」
「ほ、ほう?」
「『何か理由があってこうなる』問題において、『その前提が何であるかを理解している』時、うぃんちゃんの正答率は9割以上です。今まで勉強が出来ていなかったのは、前提となる事象や公式を知らなかったからだと思います」
「なるほど」
「そして驚くことに、『前提となる事象や公式』をスポンジのように吸収しているんです。さっき言った吸収が早いというのは、この事を指します」
「そうなんだ…」
確かに、最近は勉強に関する知識が面白いように入ってくる。
昔はここまで入って来なかった気がするんだけど、なんでだろう?
「勉強さ、昔はここまで覚えが良くなかったと思うの」
美未ちゃんは「んー」と言った後、アタシの目を見る。
「勉強が目標のために必要な事、と認識したからではありませんか?」
「目標?」
「馬鹿にされたくないから、良い点を取りたいという目標。それがうぃんちゃんの学習意欲の原動力になり、ここまでの学習効率に至ったのではないでしょうか」
「モチベーション…って事?」
「おそらくですが」
なるほど、言われてみればしっくりくる。
今まで勉強なんて必要ないと思っていた。
そんな事より大事な事が山程ある、お前は勉強なんかしなくてもいい!これは、じいちゃんの言葉だった。
思えばじいちゃんはなんでそんな事を言ったんだろう。
勉強が仕事のような子供時代において、勉強を放棄させてでもやらせたかったことってなんだ?
「うぃんちゃん?手が止まっていますよ」
「あ、ごめん」
いけないいけない、今は美未ちゃんに勉強を教えてもらう時間だ。
せっかく美未ちゃんの時間を分けてもらっているんだから、集中しないと。
「休憩しますか?」
「ううん、大丈夫。美未ちゃんの時間を無駄にしないために、進めるところまで進も!」
「あら、そんな事を気にしているんですか?」
美未ちゃんがクスクス笑う。
「え、だってアタシに付き合ってもらってる間は、美未ちゃんの勉強が止まっちゃうでしょ?」
「確かにテスト対策としては時間が取れていませんが、誰かに何かを教えるという行為は自分の知識が定着しているかの再確認が出来るんです」
「ふむふむ?」
「知らない事は教えられませんよね?ですから、私が今までうぃんちゃんに教えた事は、全てしっかり習得していた証明になります。教える事で復習にもなっているんです。ですから、私の勉強にもなっているんですよ」
美未ちゃんがニッコリ笑ってくれる。
とはいえ、今のアタシの復習だけでは『テスト対策』にはならない。
美未ちゃんは気を遣ってくれているのだ。
「美未ちゃん、ありがとね。なんか、美未ちゃんの問題にちょちょっと介入しただけなのに、お買い物に付き合ってくれたり、こんなに親切にしてもらって」
「うぃんちゃん」
「ん?」
「…私、いじめられていた間、ずっと学園に来るのが苦痛だったんです。一年生の大半を、嫌な気持ちで過ごしてきました」
美未ちゃんが顔を伏せながら言った。
「…うん」
「ようやく学年が変わった時、クラス発表を見て…これが二年生になっても続くのかと思った時の絶望は、本当に耐え難いものでした」
「それを、まだ友達でもなかったのに、うぃんちゃんは面倒臭がりもせず、その日の内にあっさり解決してくれたんです」
「そうだったね」
ちょっと気恥ずかしくなって自分の頬に手を添える。
「いじめを解決してくれただけではなく、あずきちゃんとも仲直りさせてくれて、うぃんちゃん自身も、自分の秘密を打ち明けて友達になってくれた」
「あはは…本当はそんなつもりじゃなかったんだけど…」
「私、今は毎日が楽しくて仕方ないんです。通学路で軽口をたたいたり、休日に友達と買い物に行くなんて、今までは考えられなかった事です。本当に感謝しています」
顔を上げ、アタシの顔を真っ直ぐに見る。
「ですから、これから私は私の意思で、うぃんちゃんに恩返しをすると決めたんです。この恩はきっと返し切れないと思いますが、何かがあった時は私の事も頼ってください。出来る事は少ないですが、出来る事であれば全力でお助けします」
「…ありがとう。なんか、アタシはアタシがしたい事をしただけなのに、ここまで気にかけてくれると申し訳ないなー!」
「ふふ、ですから私も、私がしたいように恩返しをしますね?」
きっとお互いにポカポカした気持ちで、クスクスと笑い合った。




