アタシは馬鹿ではないらしい1
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
ーーピーンポーン。
「はーい!」
二階からモニターを確認すると、慎吾が立っていた。
本当…時間に正確、真面目だなーと思わず笑ってしまう。
アタシは「ちょっと待ってて」と声をかけると、階下に急ぐ。
玄関を開けると、制服姿に…何故か包みを持っている慎吾がいた。
「おはよう!さ、上がって!」
「はい、失礼しま…ッ」
慎吾が止まる。
え、どしたどした。
「…昨日買ってきた服、ですか?」
「あ!うんそう!へへ、可愛いっしょ?」
「…ええ。クソ、やはり参加出来なかったことが悔やまれる」
慎吾はぶつぶつ言いながら玄関に上がると、自分の靴を下駄箱に踵を向けるよう並べた。
「ちょっとちょっと慎吾、真面目すぎ…」
「え」
「ふふ、友達の家でマナーなんて気にしてどうするの」
「それこそ、お気になさらずですよ。失礼ですが、お家の方はいらっしゃいますか?」
「あ、母さんならすぐ来ると思うよ。母さーん」
程なくして、パタパタとスリッパの音が聞こえてくる。
「どうしたのーうぃんちゃん?あら」
「初めまして、九頭龍 慎吾です。本日はお世話になります、これよろしければ」
そう言うと慎吾は先ほどの包みを母さんに渡す。
母さんは驚いたように慎吾を見る。
「あら!ご丁寧にどうも!…うぃんちゃん、後でさっきのケーキ持っていくわね」
「うん、ありがと」
母さんは軽く会釈すると、リビングの方へ消えた。
「うぃんさんは、お母様似ですね。お二人とも美人です」
「あは、ありがとう。アタシは元々男だからね、男だから異性の親に似た、みたいな?」
「そうかもしれませんね」
慎吾が優しく微笑む。
アンタ本当にどうしたの、最近キャラ違うよね?
「アタシの部屋は二階だから、行こ」
「はい」
「階段、ちょっと急だから気をつけてね」
「わかりました」
階段を上った突き当たり、アタシの部屋に入る。
「ごめんね、昨日てんこ盛りのカート三台分買い物しちゃって、部屋の中まだ片付けられていないから…」
あはは、と照れ笑いを浮かべる。
「気にしませんよ。事情を聞いた上で押しかけたのは僕ですから」
「そう言ってもらえると助かるぅ…」
改めて、片付けなければならない荷物にゲンナリする。
これが1シーズン未満って、マ?
「さて、それでは…一年生の学年末テストの点数を教えてもらえますか」
「…何点、だったかな?」
「記録していないのですか?」
「うん…確か、5教科で赤点は数学と社会、英語…あと、理科!」
「…国語以外じゃないですか」
「へへ」
「へへじゃないんですよ」
慎吾は「ふぅ」と息を吐く。
「…これでは片付けと並行して調査するのは難しいですね」
「ごめんね、教えてって言ったわりに、アタシ馬鹿すぎて…」
ポリポリと頭をかく。
「いえ、バカっぽいと言ったことはありますが、僕はうぃんさんが馬鹿だと思った事はありませんよ。勉強をしてこなかったのだろうとは思いますが」
「…ん?」
「気を遣った言い回し、社交的な知識を保有していたり、喧嘩の時の咄嗟の判断など、随所に有能だなと思わせる片鱗があります。うぃんさんは、勉強の仕方を知らないだけです」
「社交的…っていうのは、じいちゃんの真似をしてるからかも。確かに、勉強は興味がなかったから、触ってこなかったんだよね」
勉強よりもコミニュケーション能力を重視した結果、今のアタシが構築された。
それにしても、慎吾の分析が早いというか、心当たりがあるのかとても的確だ。
「アタシのこと、よくわかってくれてるんだね?」
「ッ、ま、まぁ…双龍ですから、側近の基本です」
あたふたとメガネを押し上げる。
一体どこに戸惑うネタがあったというのか?
「ということで、まずうぃんさんは教科毎の傾向を学んでいただく必要があります」
「教科毎の傾向?」
「そうです。例えば、社会は完全な覚えゲーに対し、数学や理科は前提条件、公式を当てはめる、英語は覚えゲーに加えて応用、といったようなイメージです」
「そうなんだね…大前提として今までサボってきたから、いきなり応用ばっかりで何言ってるのかサッパリだったんだ!」
「…それはそうです、これはもう割り切って考えて欲しいのですが」
慎吾がアタシに人差し指を向ける。
「勉強は積み重ねです。いきなり成果が出なかったからといってガッカリする必要はありません。少しでも点数が上がったのであれば、自分を褒めましょう」
「おお!なんかいいこと言ってるな!?」
「はい、いいこと言いました。ですから、今回の中間試験に限らず、少しずつ積み重ねていきましょう」
「わかった、やってみる!」
アタシは両手をグッと握って見せた。




