勝利→うぃん
…。
身体が重い。
「ーー」
なんだ?誰か、喋ってる気がする。
「ーー」
俺に話しかけてるのか?
「ーー起きるかな、起きたら、謝らないとな」
…。あれ?
「…父さん?」
ーーガタッ!!
目の前にあったであろう顔が、少し離れる。
…なんだか、意識がぼんやりする。
「…どうしたの?珍しいね」
あれ?俺の声、変?なんか、子供っぽいというか。
「勝利くんッ!!」
「うわぁ!?」
父さんが急に俺を抱きしめた!?え、どういうこと!?
「ちょ、いったん離れッ…って力つよッ!!?」
いくら介護職とはいえ、父さんってこんなに強かったのか!?
「勝利くん、ごめんよ!どこまでもダメな親で本当に本当にごめんね!」
「急にどうしたんだよ父さん!?…そんで、何言ってるの?」
気恥ずかしくなった俺は、どうやら病室らしい室内を見回していると、姿見が目に入り…。
「はぁッ!!!?」
そこには、俺に抱きついている父さんと、女の子がいた。
父さんは「ハッ」と俺を離すと、「瑞稀さーん!勝利くんが起きたよーッ!」と声をあげた。
するとほどなくしてパタパタと焦りがちなスリッパの音が聞こえ、母さんが部屋に入ってきた。
「勝利!身体大丈夫!?痛いところない!?ごめんね、今までも今回の事も本当にごめんなさい!!」
「かあ…さん、うん、痛いところは無いけど…何がどうなってるのかわからない」
俺の返答に二人は涙を流しながら、「良かった、ごめんなさい」と繰り返している。
そろそろマジで何がどうなっているのか教えて欲しい。
「ねえ、もしかしてだけどさ…俺」
「…女の子になってない?」
「…声もおかしけりゃ、姿見に映ってる自分に違和感しかないんだけど」
「…そうなんだ、重ね重ね申し訳ないけど、順に説明するね」
父さんは俺のベッドから離れ、正座に座り直した。
「父さんも瑞稀さんも、最近の勝利くんとどう接したらいいかわからなくなってしまっていたんだ」
「…喧嘩に明け暮れてるって噂は聞いていたから、最初は話し合いの機会を設けようとしたのだけれど、噂を聞いた頃からちょうどお母さんもお父さんも仕事が忙しくなってしまって。ようやく仕事が落ち着いたと思ったら、もう勝利が家に帰らなくなりだして…」
「きっかけを作ろうとした頃には、我が子ながら勝利くんのことが怖くなってしまっていたんだ…どうしたらいいか、わからなくなってしまった…」
二人は話す時以外、申し訳なさそうに視線を下ろしている。
「…そうだね、俺は喧嘩ばっかやってたから。でも弱いものいじめをしたつもりは無いよ」
両親が顔を上げる。
「喧嘩を始めた理由は、目に入った範囲でいじめられてる子達を助けてたからなんだ」
「なんだって?」
父さんが目を見開く。
「そうしている内に、俺たち…二人の友達なんだけど、俺たちに対して腕試しのような感じで喧嘩を挑んでくる奴が増えてさ。返り討ちにしてたら街に上昇志向の不良が溢れるようになったから、自然と治安が良くなったっていう」
「そんな…」
母さんが両手で顔を覆う。
「勝利は…ただいたずらに人を傷付ける子ではなかったのね…。あなたの事を信じてあげられず、本当にごめんなさい」
そう言うと手と額を床につけた!俺はガバッと起き上がる。
「やめてくれよ母さん!そんな事しなくても大丈夫だから!」
「いや、父さんも同じ気持ちだよ、本当に申し訳ない」
父さんが母さんと同じ姿勢をとる。
「悪いのは父さん達だけじゃないだろ!?会話を避けたという点では俺も悪かったよ!謝るなら俺だって一緒だ、ごめん!」
ベッドの上からではあるが、俺も二人に習って頭を下げる。
「許してくれるの…?」
「当たり前だよ、母さん。俺たち、替えの効かない家族だろ」
ふふっと笑うと、二人はようやく笑顔を見せてくれた。
だが、もちろんそれはそれ、これはこれ。
「で、なんで俺、女になってんの」
「それは…父さんも瑞稀さんも、話し合いの場は必要だと思ったけど、勝利くんに暴れられると怖いと思ってしまってね…」
「そうなの、だから…か弱い女の子になってもらっちゃえば、いっかな?って」
母さんが「テヘッ」と自分の頭をグーで抑える。
「父さん、実は女の子が欲しかったから、キタコレ!って思ったよ!」
今度は父さんがガッツポーズをしながら、キラッキラした目で俺を見る。
「お前ら今すぐ土下座しろ」
「もー!そんな可愛い声で、き・ち・くだゾ?お母さん、可愛いうぃんちゃんが大好きなんだからー!」
…うぃんちゃん?
「そうなんだ!今日から勝利くんは、『うぃん』と名乗って欲しい!もちろん勝利の気持ちを忘れないという意味で、WINだ!」
まさかの名付けまで終わっていた。頭が痛い。いや、この二人のせいで。
「いやぁ!男の子も良かったけど、これからは女の子のお父さんになるのかー!いや、パパかな!?」
「キモいよ父さん」
「あー!これが世のパパの気持ちかぁー!くぅーッ!!」
どうしよう、キモい。
「あ、そうそう術後の経過なんかは心配しないで!今回の手術は『清峯学園プレゼンツ』なの!ちょうど被検体を探していたとのことで、全て無償&アフターケアもバッチリよ!」
母さんが大阪人よろしく、胸の前でマネーのポーズをとる。
「いや、えぇ…」
「それにしても勝利くんの頃からイケメンイケメンとは思ってたけど、女の子になるとここまで可愛くなってしまうんだねー!!」
「んふふ!さすがお母さんとお父さんの子だわ!素材が良いもの!どうしよう、旦那さんもイケメンだったらー!」
「コラー!瑞稀さーん!浮気も許さないし、娘もやらないぞー!」
「うふふ、ごめんなさーい!」
ダメだコイツら。親としても、倫理的にも。
「そうだ、うぃんちゃん、明日は始業式よ」
「は?」
「うぃんちゃんが入院して、今日まで1ヶ月経ったの。だから明日から高校二年生になるのよ」
話が急過ぎる。
「安心して!採寸は終わって制服も出来てるから!」
「そうだ!今すぐ袖を通しておくれよ!一足お先に写真を撮ろう!」
両親は来た時とは正反対のウキウキ気分で部屋を出ていった。
明日から二年?今日から女?
「は?」