女の子二日目→放課後
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
十三 龍也:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。のんびり屋。勝利とは幼馴染。一人称はオレ。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
たっつんの件を除けば、今日は何事もなく放課後になった。
…いや、中庭の一件は、充分問題に値するけれど。
チラと美未ちゃんの方を見ると、ちょうど目が合った。
目を細めて軽く手を振ってくれ、その仕草にドキッとしてしまう。
…女の子ってみんな、積極的なのかな。
頭をフルフルと動かし、気持ちを切り替える。
アタシは慎吾の席に移動すると、慎吾の前の席に腰掛けた。
「悪いな、今日は頼らせてもらう」
「ええ、もちろんです。特等席で応援してください」
慎吾は既にやる気満々の様子。
「もちろんだ。アタシだって、気持ちを作ってる」
「…正気ですか?僕が敵わなかったら、その時は、
この活動をやめましょう」
「…ッ」
当然だが、慎吾にだって慎吾の健康を願う人がいるはずだ。
三人とも大事な人がいる。アタシの両親 然り、おばあさま然り。
自分たちの手に負えなくなった時、この活動を終える。
それは、今日かもしれない。
でも、だとしたら、救えるはずだった人たちはどうする。
助けてと言えない人を、どうすれば良いのだろう。
…自分の力不足が、歯がゆい。
「…僕、負けるんですか?」
「え」
慎吾が眉をハの字にして笑う。
「完全に僕の負けだと思っていませんか?」
「え、いや、その…だって!ら、楽観視できないじゃないか!」
「それはその通りです」
慎吾があごに手を持っていき、うーんと唸る。
「多分ですけど、十三がやられたのは背負い投げかと思っています」
「…投げ技?」
「ええ、十三の頭部に手当ての跡は見られず、背中に強烈な痛み、おそらく間違いないかと」
「学園前のレンガ畳み。確かに受け身を取る間もない衝撃なら、意識が飛んでも不思議じゃない。…受け身を取れても、しんどいだろうが」
「要するに、組ませなければ良いと思っています」
慎吾はネクタイを外すと鞄にしまった。
「…シャツも脱いだ方が良いですか?」
「…それは、着といた方が良い、んじゃないか」
◆
「何時に来るんでしょうね」
正門で腰掛けながら慎吾が言った。「正直、テンションを保つので疲れます」
スマホをつけると、時刻は19時。
相手が昨日何時頃にきたのか、たっつんにメッセージを入れようとしたところで、
「お、おるやんか」
やばそうなヤツが現れた。
大阪弁…っぽい、な?
コイツがたっつんをやったやつで、間違いなさそうだ。
身長は…多分、慎吾より少し高い、185cmくらいか?
「なぁお二人さん、あんたら皇 勝利か双龍の片割れ知っとる?」
「ええ、よく知っています。僕が双龍の片割れですから」
「おお!そうなんや!ほんなら、皇 勝利はどこや?」
「生憎、席を外しておりまして。要件なら僕が伺いますよ」
「…んー出来れば本人に会いたいんやけどなぁ」
そういうと頭をポリポリとかき出した。
「双龍はもう、飽きてん。元々、皇 勝利に興味があってんし。双龍の片割れ探してんのも、皇 勝利に会えると思ったからやで…」
「なるほど、双龍はただのステップに過ぎないと」
「そう聞こえてもうた?でもまぁ、その通りやな」
大阪弁がニヤリと笑う。
「とにかく、皇 勝利は今日この場には現れません。僕と戦ってもらいましょうか」
慎吾はメガネをしまうと、スッと立ち上がった。
「こちらは双龍として、ケジメをつけなければならないので」
「ふぅん、ええやろ。あんま期待出来ひんけど、やりましょか?」