女の子二日目→昼休み
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
九頭龍 慎吾:私立清峯学園二年生、双龍の片割れ。成績を重要視しており、喧嘩は勉強のストレス発散として位置付けている。基本的に人付き合いが悪い。一人称は僕。
兎月 美未:私立清峯学園二年生。うぃんのクラスメイトで、大人しめの性格。あずきとのいじめ問題は解消され、今は最初のような仲良しに戻っている。一人称は私。
狼山 あずき:私立西方学園二年生。うぃんのクラスメイトで、美未の親友。美未のいじめ問題を通じて、二人の仲は深まることとなった。一人称はウチ。
学校に戻ると、ちょうど昼休みの時間だった。
あのあとおばあさまへの説明だなんだと対応しているうちに、結局こんな時間になってしまった。
帰還後、美未ちゃんにお礼を言うと、その流れで昼食に誘われ、今は中庭にいる。
慎吾も誘ったが、「僕はパスです」と軽く流されてしまった。
「美未ちゃん、さっきは本当にありがとう。アタシ、テンパってたからすごく助かったよ」
「いいんです!私はたまたま先生から聞いただけですし、それに、こんなことではうぃんちゃんへの恩返しにはなりません」
そう言うと美未ちゃんはにっこりと微笑みかけてくれた。
…そして、あずきが若干居心地悪そうに笑う。
「あは…あはは、ウチの自業自得とはいえ、耳が痛いしー…」
あずきはそのままサンドイッチにパクリと噛み付く。
「仕方ない、あずきだって被害者だろ。自分を守ることは恥ずかしいことじゃないって」
「そう言ってもらえると、ほんのすこーしだけ、救われるしー…」
あずきの苦笑は晴れない。
「…あれ、うぃんちゃんはおにぎり一つなんですか?」
美未ちゃんが不思議そうにアタシを見る。
アタシはそのおにぎりの包装を剥がすと、パクリと噛み付く。
「うん、アタシ最近胃袋小さいみたいでさ、あんま食えないんだ」
「そうなんですか…私のおかず、少しつまみませんか?」
美未ちゃんは自分の弁当箱の蓋を開けると、アタシに見えるように傾けてくれた。
そこには、彩りを考慮された綺麗なお弁当が入っていた。
「うわ、すご!もしかして、美未ちゃんが作ったの?」
「えへへ、そうなんです!良かったらどうぞ」
「それじゃさ、アタシ卵焼き食べたいんだけど!」
「もちろんです、どうぞ、あーん」
「!?…あ、あーん」
ーーモグ。
「私の家は卵焼きの味付け、塩なんですけど、いかがですか?」
「美味しいっ!え、すごいね!?美未ちゃん料理上手なんだ!」
「喜んでいただけて嬉しいです…」
美未ちゃんがはにかむように笑った。
その横で、あずきがドヤ顔を作る。
「ウチは美未の料理が美味しいの知ってたしー!!」
「でも、あずきちゃん…時々私のお弁当、台無しにしちゃってたよね…」
「うっ…」
にっこり笑顔な美未ちゃんから、強烈なプレッシャーを感じる。
あずきは助けを求めるようにアタシを見るが、アタシも笑うしかない。「あずき、こういう時はどうするんだった?」
「ぁぅ…美未、それに関しても…ごめん」
「いいよ、もちろん。他には何があったかな?」
「み、美未ぃ…」
逆に傷心なあずきを見て、美未ちゃんがイタズラっぽく笑った。
「それにしても、昨日この問題を解決できて良かったな。そういう意味では、画鋲を入れてくれたり、水をぶっかけてくれて助かったか?」
冗談のつもりでアタシも追い討ちをかける。
「ぁぅぁぅぁぅ…」
どんどん肩身が狭くなるあずき。
美未ちゃんはそんなあずきの頭をなでなでした。
「本当に、この幸せな時間を作ってくださって、ありがとうございます…うぃんちゃん」
「全然いいって!アタシだってそこまで恩着せがましくする気ないしさ」
「ウチも感謝してる…ウチらを助けてくれて、本当にありがと」
二人が軽く頭を下げる。
「実際、アタシだって感謝してんだよ?今まで友達といえばたっつんと慎吾しかいなかったし、まさか女の子の友達が出来るなんて夢にも…ぁ」
二人は不思議そうにこちらを見ている。
「どうして、女の子のお友達が出来ると思わなかったんですか?それに、昨日から交換学生としてきたにしては、九頭龍さんとの距離も近いように思いますし…」
「あは、あはは…あぁ…うーん…」
ポリポリと頭をかく。
口が軽いわけじゃないと思うんだけど、やっぱり親しくなる人には説明した方がいいのかなぁ…少なくとも、アタシがうぃんとしての日が浅い内は。
アタシは親の愛情、心配で性転換に至った事を二人に説明した。
「そんな事…あるんですね…」
「ウチも…そんなん聞いたことないしー…」
「アタシだってないよ」
ふふっと笑ってみせると、二人も釣られて笑った。
この話題を深刻な表情で話さなくて済むのは、父さんのおかげだ。
昨夜、打ち明けてくれた父さんに感謝。
「ってことは…当然、うぃんも女子更衣室使うんじゃね?」
「ブッ!!!」
飲みかけていたペットボトルのお茶を噴き出す。
そんなこと考えたこともなかった。
「そうですね…ということは、修学旅行などの入浴も」
「ヒィ!!!」
きっ…気まずすぎる。
アタシは視線を自分の足元に下げて、二人の顔を見ないようにする。
「ウチは全然いけるし」
「…私も、大丈夫です」
「へ?」
バッと前を見ると、先ほどのはにかみ美未ちゃんと、ニシシと笑うあずきの姿が。
「え、なんで!?気持ち悪くないの!?アタシちょっと前まで男だったんだよ!?っていうか、中身まだ男だよ!?」
「関係ないしーっていうか、ウチ、うぃんが男だったら多分告ってる」
「んんッ!?」
「うん…私も、今みたいに好きになってると思います」
「今!?え、好きっ!?」
な、なんだなんだ!?頭が追いつかない!
「うぃんは、それだけのことをしてくれたんだし。もっと一緒にいたいしー」
「私も、本当に感謝してるんです。うぃんちゃん、大好きです」
二人は頬を染めながら大胆な告白をしてくれる…!
「ぶっちゃけ、もう告白したようなもんじゃん?」
「そうですね、恋人は…私たちのどちらかから選んでくださるんですか?」
「あわ、あわわわわ!!」
アタシはというと、制御不能になったロボットのように、少しの間カタコトのやり取りをすることが精一杯だった。